第4話

「奇跡」
8
2020/06/11 21:31
AM9︰46 起床

「ノソノソ」

「ニャー」

今日はアラームではなく猫のミーちゃんに起こされてしまった。

ミーちゃんはトイレは決まった場所でするし、お利口さんなので私が外出のとき以外は基本ゲージを開けっ放しにしている。


「おはようミーちゃん」

白い毛並みに包まれた立ち耳のスコティッシュフォールド。
顎をこしょこしょとくすぐりながら石橋屡奈は朝を迎える。

今日は休日の土曜日。
とはいっても綺麗好きな私の日課は割と忙しい。

「朝ごはんちょっとまっててねミーちゃん」

ミーちゃんの朝ごはんは台所の上棚。
ギリギリつま先立ちしない程度の位置に手を伸ばすとミーちゃんは何かを察し上目遣いでおねだりを始めた。

パウチにたくさん詰められたミーちゃんの大好物を取り出して適量を器に入れる。

「ニャー」

「まーだ、もうちょっとまって」

用意したご飯を一旦台所の台に置き、続けてもう一つの器に水を注いだ。

ゲージの中に器を乗せるための棚がついていて、ちょうどミーちゃんの食べやすい位置に来るように調節されている。

ミーちゃんをゲージに誘導しつつ、お待ちかねの朝ご飯と水をこぼさないように棚に乗せた。

一人暮らしを始めてまだ一ヶ月目。
なれないことも多くて生活は少しかつかつだけど、母の仕送りのおかげもあってかなんとか生活できている。

「♪〜」

10時に設定したスマホのアラーム、流行りの音楽を流していたのだが最近毎朝聴きすぎてこの曲が嫌いになってきた。

アラームを止めるついでに今日の天気だけチェックしておこう。

仕事と両立したいという思いから通信制の大学にしたのはいいけれど、とにかく出会いがないのが最近の私の悩みだ。

職場恋愛は気まずくなるから論外だとは思ってたけれど、部署が違えばそこまででもないのかな?

この前「もえ」という友人に「合コンとかどうかな、そういう話ある?」って相談したら、飲みニケーションの達人がいるって紹介されたんだけど。大丈夫なのかな、あの人。

そんなわけでガッツリと合コンだと銘打つと私の中でハードルが高いということもあり、交流の意味も含めた飲み会という てい で面々を集めてもらっている。

合コンを提案したのはいいもののやっぱりちょっと不安というか怖いかな。

でも、提案した手前断れないよね。

最悪男女比次第で補充要員にもえともえの女子友達も何人か来てくれるみたいだから心強いけども。

「はぁー」

だめだめ、ため息なんかついてる場合ではないぞ石橋屡奈。
ふと我に帰り、私は通販で安価で買った掃除ロボットの電源をいれる。

ここからようやく私自身の身支度。
歯磨き顔荒い、化粧水に乳液、お化粧とヘアセットは朝食の後にしよう。でないと結局崩れて二度手間になる、というかそこまで私のお腹がもたない。
天気予報は夜まで雨は降りそうにない感じだったから、今日はお布団も天日干ししておこう。

AM11︰42 朝食

気がついたらお掃除ロボットは任務を終えて充電機能のある基地に帰還していた。
文明の発達とは凄まじいものだとつくづく思う。

「私も朝ご飯食べないと」

今日の朝ご飯はハチミツトーストにコンポタのスープ、サラダにはレタスにプチトマト。
足りないビタミン類は後でサプリ出穴埋めするから大丈夫。

PM12︰05 メイク&ヘアセット

私は朝食を済ませると出掛けるための身支度に取りかかる。

そう、今日はなんといっても月1の楽しみの日。

実は私はとあるゲームのアバター(見た目を変えるアイテム)を買うため月に1000円だけ課金をしているのだが、今日はその課金用のプリペイドカードの購入を唯一許されている日、正確には自分で勝手に許している日なのだ。

日差しが強いからファンデーションはUVカットのものにしておこう。

仕事の日ほど焦る必要はないけれど、お昼までには出発出来るだろうか。

PM12︰42

「あっ」

私はふと洗濯物が溜まっていることを思い出したので布団を干すついでに布団のカバーと洋服などをまとめて洗濯することにした。

「ニャー」

「ガタン!」

「チャリン」

ミーちゃんの仕業だ。

「もー、ミーちゃん!」

いつもはおとなしいのにどうしたんだろう?

ミーちゃんは寝室にある私の机をあさり筆箱と原付の鍵を落としていった。
筆箱を定位置に戻しつつ原付の鍵にも手を伸ばす。

「原チャにしようかな」

今日はいつものコンビニではなく、気分を変えて原付きで少し遠くにあるコンビニまで行ってみよう。

PM13︰16 出発

ハンカチ、ティッシュその他諸々エチケットはわすれずに。

「ミーちゃんお留守番よろしくね」

ゲージの扉を閉めてミーちゃんにお留守番をお願いして家を出た。

そして原付の色に合わせた淡いクリーム色のヘルメットを被り、50ccの小さなエンジン音を立てて私はあのコンビニへと向かっていったのであった。

PM18︰00 夕食

ややあって夕方。

僕は自分の部屋で買ってきたカップ麺をすすりながらパソコンの電源をいれた。

母はもう少ししたら帰って来るだろう。

とりあえず、今日あったことを思い返してみることにした。

気分転換に外に出る。

喉が乾いたが自販機で買えずにコンビニまで行く。

ちなみに運動不足に10分の徒歩は長い。

これは今日の名言にしよう。

いや、やっぱりやめておこう。

好きな子に偶然合う

飲みに誘われる

ハンカチもらう

そんなことあるぅ?!
そんな奇跡あるぅ?!
今日はテンション上がりすぎてエイム(照準)がずれそうだ。

と、僕はまるで思春期の男子中学生みたいな興奮に胸をときめかせながらFPSのアカウントへログインする。

そういえば僕が暇人を暇系と言い間違える理由、それは、、。

チャット欄

18︰03暇系男子さんがログインしました。

暇系男子「お疲れ様あああああ、あれ?アバター変わった?」

名無しの凡兵「おつかれ様であります!」

ミーシャ「どうこれ、蝶々の羽ついてるの可愛いでしょ」

そんな奇跡どころの騒ぎではなかった。

つづく

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