第6話

心の扉
1,105
2020/11/02 16:27
声がでない。





それは、長い年月で重ねた心の問題だと。

しのぶから聞かされた。




蝶屋敷では、小さなメモ帳とペンを使って

誰とでも筆談できるようになった。




耳は聞こえる。

音は聞き取れるので一方的に書くことが多いソレ。





でも、あの人だけは…

必ず返信も書いてくれる。







ーーーーーガラガラ


「あなた!元気にしていたか?
 身体の具合はどうだ?」




太陽の人
煉獄杏寿郞さん。


任務が近い場所だったり、非番の日に会いに来てくれる。



最初は声をかけてくれるが
この後、彼は私の隣に座り

この小さなメモ帳を共有してくれるのだ。




ーーーーーカリカリ カリ


部屋にペンを走らせる音だけが響く。



この炎柱と呼ばれる太陽のように暑い彼は、会話だけを聞いていても本当に熱い。



この静寂が似合わないくらい…


言ってしまえば煩く元気な人だと思う。






ーーーーーカリカリ 





ーーーーー

今日は、任務がなく非番の日だ。
外には春らしい花が増えて暖かくなってきた。

あなたにもいつか見せたい美しさだ。

ーーーーー




優しく短い文章を書いてくれる彼。


「どうだろうか」



いつもの会話だけを見ていれば
とてもハキハキ聞かれそうだが…



今、2人で居るこの時間

彼は優しく、とても小さな音で私に聞いてくれる。


 




ふと、顔を上げた先、

彼との距離はとても近かった。





一瞬、くすぐったくなる。







ーーーーーカリカリ カリ




目を反らすように、そっと


私もそのすぐ下に返信を綴る。




ーーーーー

今日は体調がいいです。
食事も美味しく頂きました。

私は雪の街に生まれたので、
春をあまり目にしたことがありません。

ぜひ、体力を付けて春に逢いに行きたいです。

ーーーーー



書き終えるとメモ帳を彼に向け

顔を上げる。


メモ帳を読む彼の姿がどこか可愛い。



「うむ!」



ーーーーーカリカリ


ーーーーー

俺が君を連れていく。
共に季節を愛でよう。

ーーーーー







ニコリ。

彼に向かって微笑んだ。





ーーーーー

あなたと居ると
とても温かい気持ちになります。

ありがとう。

ーーーーー





お互いに何かを確認した訳でもない。



けど、確実に。

2人で同じものを見つめ

共に温かくなれる時間が増えていた。





いつか

この心の扉にへばり付いた

分厚い氷も太陽のように暖かいこの人が

溶かしてくれるかもしれない。





そう思うと不思議な安心感があった。











その後も煉獄は、時間を作ってはあなたのもとを訪れ、筆談を重ねた。




やがて

鬼の子が産まれたその日が来ても

煉獄は


ーーーーー

よくがんばった。
今はゆっくりと休んでほしい。

ーーーーー


と、あなたを労うことを優先した。

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