「おっしゃる意味が……あの、分からないのですが 鶴音さんになる、というのは」
「受験さ 鶴音はあまり頭が良くなくてね 松田家の末裔の鶴音にはどうしても君の通う進学校へ入れたいんだよ」
松田家の名誉だとか。
そんな所だろうか、学校至上主義がいるように成績至上主義も当然ながらいる訳で。
学校至上主義の両親という身近な存在がいるからこその少し気に食わない意見があるのは呑み込めた。
娘を賢くないからと、娘の代わりを作るのも、また意見の自由であり。
しかしまたその意見を表現する方法、表現の自由もある。
例えそれが、あくまで客なのに失礼な態度を取られてもこれは鶴音の父の選んだ表現。
理不尽を呑み込む勇気。
「勿論、見返りもある 君は医者になりたいんだろう」
「あぁ、はい……」
「僕の知り合いに大学病院の院長がいてね……君のことを紹介するよ 私の娘を進学校に入れた優秀な子、それも山内夫婦の一人娘だとね」
「それで君に頼みたいのは……」
長くて、詩的で、うざったるい。
簡単に言えば替え玉受験で。
これは取引という名前をしたただの迫害だ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!