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第23話

彷徨いに吹く風
【side 坂川悠虎】










清宮くんが保健室に詰め寄って来た、あの時は本当に驚いた。

俺が白野さんにしたことは、確かに教師という立場でありながら情けがなかったかもしれない。

清宮くんに「教師の自覚があるのか」と言ってもらってから反省もしている。とは言え、自分の気持ちを曲げるつもりは無い。

決して口には出せないのは当然だ。
それは性格が想いの邪魔をしている。そして何より教師であるからだ。

「伝えたい」と言う溢れる想いと「伝えてはいけない」という制御の気持ち。


せめて。


せめて彼女、白野さんを少しでも笑顔になれたなら。


俺が笑わせてあげられたなら。


これが俺の切実な願いだった。







それから数日。文化祭の2日前の今日。

白衣を貸す代わりにと、俺のウィッグを渡した。正しくは俺が付けた。

このことに、特に理由はない。
なんとなくやってみたかったというのが正直な思い。

もちろん女の子だから、男の子のウィッグを被せても違和感しか残らなかった。
でもそれは慣れていないだけだった。

白野さんが白衣を抱きしめて保健室を出ていく頃には、もう俺には見慣れた姿となっていた。

髪はサラサラ。
鏡越しに見える瞳は輝きがある。
赤らめた頬もリンゴのように真っ赤だった。



「教師の自覚あんのか」

清宮くんが俺に言い放った言葉が頭から離れない。

あの時は「清宮くんは白野さんが好きなんですね」と言った。
それはその場しのぎの誤魔化し。

正直焦っていた。
教師の自覚があるのかと。

自分で自分にもう既に問いかけていた。
その時、色々な俺が芽を出した。



教師としてどうなのか。

こんなことを思っていてもいいのか。

バレなければいい?

だめだ。

俺はあくまでも新任だ。

そして何よりバレないように隠し通せるのか。

いや、隠し通せなかったからこそあんな行動に出たのだろう。

20歳を超えて、初めて抱いた感情。

まるで大きな中高生のよう。

彼女を目の前にすると本心を隠すのに精一杯。

ブレたクール。

そして彼女を目にしなくなった時、溢れる本心。

こんなに感情が揺さぶられるものなのか…。



いつまでも悩んでいてはいけない。
ただどうする?有り余る気持ちは。

初めての気持ちを目にして、想いを伝えられないのは俺が"教師"だから。

いや。違う。気持ちと行動と想いが交差しないからだ。



好きだと気づいた想いを

「立場を考えろ」
「相手は生徒だ」
「俺は告白なんてしない」
「恋なんてするような人間じゃない」

という気持ちが殺そうとする。

だがそんなものよりも強いのは本能。
そして身体。

気持ちにも想いにも平気で抗う"行動"
何よりも素直なのは"行動"
何も考えられなくなって出すものも"行動"



理性が何かに壊されたあの時。
泣いている彼女を見て黙って抱いてしまった時。
鏡越しに目を合わせた時。


嬉しいと思った。

幸せだと、思った。


そして今は──

『申し訳ない』









今日は聞こえない教室からの歌声。
その代わりに文化祭準備に励む若い声が聞こえる。

それもそれで教師としては幸せなことである。












夕日が照らない今日は曇り。
俺は、外に出て時期にしては珍しい、冷たい風に吹かれた。