「ただいまー」
白塗りの我が家に帰ってきた。玄関を開けるとコンビニのビニール袋がカサッと音を立てる。
父親は仕事で帰ってて来てなくて、母親は夕飯を作っているみたい。大学生の姉はどこにいるのだろうか。
自分の部屋にいるならばいつもドカドカとうるさいのだけれど、2階からは全く音がしなかった。
「お母さん、お姉ちゃんは?」
「あ、羽音おかえり。お姉ちゃんならデートに行ってて今日は帰ってくるの遅いんじゃないかな。」
あぁ、デートね。
どうりで最近部屋から話し声が聞こえるわけだ。通話か何かしてるんだと思ってはいたけど…。まさか本当に彼氏がいたとは。
「そっか。」
と言いながら私はLINEの画面を開いた。
1件の新着メッセージが表示された。
誰からか。蓮理だった。
そうと決まればあとは早い。
ビニール袋をもって、スマホをもって。
「お母さん、ちょっと蓮理のとこ行ってくるわ!」
「こんな時間に?蓮理くん大丈夫なの?」
「蓮理に呼ばれたの。そんな気はしてたけどね。」
「そう…早めに帰ってくるんだよ」
蓮理の家は結構久しぶりだな…。
お母さんがあんな顔するのも分かってしまった。高校生の男女が夜に家に行くんだもんね、あーだこーだ想像はしちゃうよね。
でも大丈夫。そんな関係ではないから、笑
外はすっかり暗くて、カーディガンだけじゃ少し寒かった。
相変わらず大きな家だなぁ…。
少し洒落っ気のあるインターホンに人さし指を置き、少し深呼吸をして強めに押した。
「入って」
インターホンから返事がないと思ったら、玄関からひょこっと顔を覗かせていた。
入ると真っ直ぐに廊下がある。
「これ、蓮理の好きなやつ、買ってきた」
「もしかして…」
「そのもしかして。」
「ありがとな!」と嬉しそうに笑ってみせてきた。
そーゆー笑顔は昔っからなんにも変わんないんだよね、。
「今日…、親御さんいないの?」
「ここ三日程はいないな。なんか旅行に行ってんだよ。凛太のやつは友達んとこ泊まりに行くって言うし。」
「夕ご飯、食べてる?」
「食べてるよ、一応。」
「ならいいや。」
凛太くん…蓮理の弟くん…。可愛かったのにもう高校生になったんだよね…。
階段を上がって、蓮理の部屋に着いた。
「あれ、いつもんとこ座んないの?」
いつもんとこ、。座っていいのだろうか。行く度にベッドに座って漫画を読んではいたけれど…。もうあの頃じゃないん…だ…けど…。
「お前が来るって言うから、さっきわざわざいつものところに移動させたのになー。」
「それはありがとうございますー。」
ちょこんと、ふっかふかのベッドに座った。
抜群の座り心地。
ただ、ここでプリン食べると汚しそうだったから、ずるっと降りた。
「プリン食べたい。」
催促するかのような目で蓮理は私に言ってくる。
「仕方ないなぁ。はい、どーぞ!」
「いただきます!」
プリンで少しでも部活より楽しんでもらえれば…。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!