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第27話

あるまじき感情
…いやいや、どうしてこうなってるの…。




「あ〜いいですよ、めっちゃいいですよ、あ〜っと…もうちょい不慣れな感じ出してくれませんか?」

「えっと…こう…でしょうか。」

カメラをがっちり構えてシャッターを何度も押す名前も知らない二年の子…。


こうなったのはほんの数分前がきっかけだった──



「あの、3年生が今日この白衣を着てるのは男装ですよね?あの男装女装カフェかなんかの!!」

「あ、うん、そうなの。」

「やっぱり〜!!じゃあ今は男の人になりきってメイクとかしてるわけですよね、」

「そうだよ、友達がやってくれて…」

「んっと…じゃあ…」


と言って二年の子は近くに居た二年の男の子に言った。


「あ、あーゆーのない?ちょっといい感じのベッド的な」

「ベッドはねぇなぁ。」


ここで嫌な予感は嫌な確信に変わった。


「…先輩養護教諭は後輩養護教諭が一生懸命に仕事をし、生徒に寄り添う姿にだんだんと…はいっ、さんっ…白野先輩は壁に!坂川先生ははい壁ドン!あぁーっとなにあれ、えっと壁ドン…の肘バージョン!!!」


二年の子は爆発するかのように何かが溢れ出し、急に叫び出していた。

私と坂川先生は困惑しながらも指示に従った。
従うと坂川先生はどんどんと近くなってくる。
そして自然と頬が赤らむ…。


「そしてからのちょい脱ぎぃぃぃ!!!白野先輩の白衣の右襟を掴みながらゆっくりと下ろす!!そう!!左も丁寧に!!それを受け取って白衣を持って下さい白野先輩!もう少し肩出していただけますか!!」



──と、今に至る。



坂川先生の目は真っ直ぐだった。
少しは抵抗してくれ、とも思ってしまう程に。

そもそもこれはいつまで続くのだろう。
いい加減私の心臓も持たなくなってしまいそうだった。



「いつ終わるんでしょうかね…」

「そう…ですね…」

「まさかこうなるとは私も思ってはいませんでしたよ」

「そりゃ私だって…」



「白野先輩!!白衣落としてください!!」


「え、あ、はい!」




















「あの…坂川先生…お疲れ様です…」


長かった謎の撮影も終わり、坂川先生と通りの少ない静かな廊下を歩いていた。
二年の子は満足そうに取れた写真を見ていた。恥ずかしくて死にそうな私達をよそに、一人でキャッキャとはしゃいでいた。なんとも複雑だ。


「白野さんこそ…。」

「あ、私蓮理に呼ばれてるんで先に…」


私がそういうと坂川先生は私の左腕をとった。


「えっ」

「あ、すいません…」


何かいいたそうなその顔に、黙っては居られなかった。何か言わないと行けない気がした。
でも咄嗟に出た言葉は。


「さっきのは…どういう気持ちだったんですか」

「さっきの、とは…?」

「さっきじゃないですかね、今朝の…おでこの…キ…キスは…」



「狼の話、でしたね。あれはあの通りです。本能だったんですよ。教師としてあるまじき感情…。あの時白野さんに白衣を渡す時、迷ったんです。色んな思いが込み上げてきて、今までたくさん悩んできたことが溢れてきて。我慢しようと思いました。でも理性が本能に侵食されるというのがこういうことなのかと悟ったんです。申し訳ないと思っています。」


坂川先生はゆっくりと話終えると私の方へ頭を下げた。私はそんな先生の前へしゃがんで言った。


「顔を上げてください、先生。」

「もし申し訳ないと思っているのであれば、私が何も拒まなかった、抵抗しなかった、ということを思い出してください。先生は悪くないです。今の話を聞くに、お互いがお互いに抱いてる感情というのはきっと同じなんじゃないかと思います。
私も、生徒が先生に抱くべき感情ではないと自覚しています。それでも今朝は嬉しかった。もう自分の気持ちに嘘をつかなくていいふうにしてもらって。」


「この感情の名前を白野さんに伝えるのは、私が教師を辞めるか、あなたが卒業する時です。」


分かってる。
それがお互いがお互いを守るための決断だということを。
だから信じた。

残り数ヶ月。


「もちろん、分かってます。」


言葉に出来ないから心の中で言った。
ごめんなさいとありがとうを、
そして、 大好き だということを。






静かな廊下の一角で、名前のある感情の、名前のない約束をした。


あるまじき感情に対して、あと数ヶ月、どう付き合おうか。


再び考えさせらる。


絶対に言えない言葉にこんなにも悩まされるとは…。


ある意味幸せだと感じた。