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第3話

笑顔
「どうしたの?白野さん」

坂川先生に呼ばれた志田先生は職員室のドアを開けながら言った。

「わざわざすみません。吹奏楽部がパート練習で教室を使うみたいで、鍵を渡しておきました。練習終わりごろになれば鍵を持ってきてくれると思うので、その報告に。」

「そう。ありがとう。帰るなら気をつけて帰るのよ。」

「はい、ありがとうございます」


それから私はあまり日の当たらない昇降口に向かった。
ほとんどの人が部活に行っているせいか、静かで、ほんの少し寂しかった。

下靴を出す時、「羽音ちゃん」と、私を呼ぶ声が聞こえた。
落ち着いた、優しげな声。
間違いなく彼女だ。林田菜穂。
小学校から仲の良い友達で、どこからともなく溢れ出る羊のようにふわふわしたオーラは菜穂だけの物だ。

「部活?さっきオーボエの子がパート練習って教室借りて行ったよ」

「そーなの。クラリネットパートはアンサブルに向けての話し合いがあってね、パート練習の時間に間に合わなくって。」

「そっかぁ。もうアンサブルに向けての話が出る時期かぁ…」

クラリネットを吹く菜穂はアンサブルによく選ばれる。中学の時から、クラリネットのアンサブル=菜穂という考え方がよくあった。
それに反する人はいなかった。
先輩であろうと後輩であろうと、誰もが認められるほどの実力があったから。
それは高校に入っても全く変わっていなかったことが、私にとっても嬉しいことだった。

「これ以上遅れると先生と後輩に怒られちゃうから、行くね」

「うん、頑張ってね」

ヒラヒラ、と手を振った。
菜穂は両手に楽譜と譜面台とクラリネットを抱えていて、手を振り返す代わりに優しく笑いかけてくれた。
何度この笑顔に救われたことか。
菜穂の笑顔は何もしてないのに幸せにしてくれる。それは私に限ったことではないだろうと思う。むしろ何もしていないわけじゃないのかもしれない。

大人しくてふわふわしている菜穂にとって、「笑顔」は大切な物なのかもしれない。そう思った。