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第21話

絡まる拒絶と本心
先生は「しておきたいことがある」と言いながら私の方へ詰め寄ってきた。
白衣をおあずけされ、混乱状態にはあるものの、ここは踏ん張れ、と冷静を保つ。

そして先生は私の髪を見るなり「こんなに長いと難しそうですね」と言った。

なんのことか分からないまま、きょとんとしていると、先生は声を優しくかけた。


「白野さん、ここ、座ってください」


そう言って案内した所は目の前に三面鏡があるデスクだった。いや、デスクと言うより化粧台という方が正解かもしれない。


「何かするんですか?」

「秘密です。目を閉じていていただけますか?すぐ終わります。」


そしてゆっくりと目を瞑った後、優しくて大きな手が私の髪に触れた。髪をまとめた後、何かに縛られる感覚、そして新たに知らない感覚が頭の形をなぞる。


「目、開けてもいいですよ。」


そう言われて目を開けると、鏡の前に写っているはずの自分がいなかった。目の前にいたのは少し長めの髪の少年だった。


「えっ…、!あ!え、?ん?」

「そんなに困らないでくださいよ。少し髪をいじっただけです」

「あっ、私の髪はどこへ、、、?」

「私が過去に使ったウイッグです。なのでちゃんとありますから」


坂川先生ははケラケラと笑いながら言う。
ウィッグの髪を触りながら、先生の息は私の右耳へと近づいていく。

やがてウィッグを触る手は止まった。


「白衣をお貸しする代償です。」


鏡の私を見る先生と鏡の先で目が合う。
ドキンと高鳴った鼓動が一気に加速していくのがわかる。


「代償…?」

「はい。白衣をお貸しする代わりに、この髪で文化祭に出ていただけませんか?」

「当日は先生がセットして下さるんですか?」

「もちろんです。」

「…なら、喜んで!」


先生はにっこりと満足そうな笑顔になった。


「さ、早くみんなの元に行ってあげてください」

「でもこれ返さないと…!!」

「メイクなんでしょう?それなら髪にあったメイクをしなければなりません。なので帰りに返してくだされば大丈夫ですよ。」

「これで廊下歩くの…」

「大丈夫です、とても似合ってるので。」


私は恐る恐る部屋を出た。しっかりと白衣も受け取り、「ありがとうございました」と言って。先生は最後まで見送ってくれた。

教室に帰ったらどんな反応をされるだろう。
ましてや廊下で誰かに会ってしまったら。
だけど、自分でもかなり気に入っている。

嬉しくなって、思わず腕に力が入り、肩もくすむ。するとファサっと、抱きしめた白衣が音を立てる。





「え!羽音!?どうしたのその髪!!」


幸いにも廊下で人に出会わず、安心していた所で教室に着いた。思い切ってドアを開けた瞬間、私の髪に第一に反応してくれたのは真礼だ。


「坂川先生にしてもらったの!」

「白衣借りに行ったついでとか?」

「うーん…、そんな感じかな?」


詳しいことは何も言わない。
白衣をおあずけされたことも、優しい手で髪を触ったことも、耳元で「白衣の代償」だと言ったことも、もう一度セットしてもらえることも。

全ては私が知っていればいいと思っている。私だけが知っていれば良い感情。

ただ、その感情が何なのかは私にも分からない。

嬉しい。でもそれ以上の感情というか。
言葉では言い表せないこの感じ。


「じゃ、早速メイクして行きますか!」


真礼のメイク道具が一気に並んでゆく。
決して詳しくないわけではないけれど、真礼ほどは分からない。


「こんなに髪型変わると気合いも入るの。」


と真礼はウィッグの前髪を留めながら言う。
丁寧に、丁寧にメイクをして行く。

真礼のイメージとしては可愛い男の子なんだそう。男の子らしい顔にするのには苦労する、と過去に言っていた。


私がボーッとしていると、真礼が話しかけてくれた。


「羽音、今好きな人いないの?彼氏とかさ。」


何かを射抜かれたような問いかけだった。
瞬間、頭を過ぎったのは


──坂川先生


違う。これは違う。きっと何かの間違い。そんな質問をされて先生が出てきちゃうなんでいけない。だめ…。


「い、いないよ、。」


曖昧な返事。真礼は「ふーん」とだけ言った。でとその声はトーンが高く、何かを企むような声だった。


「な、なにさ。」

「いいや?なんでもないよ。」

「じゃあさ、あたしの話聞いてくんない?」

「え?いいけど珍しいね」


よく真礼の話を聞いている。でもこうして真礼が「聞いてくれる?」と言ってくることは本当に珍しいことだった。

真剣な話なのだろう。


「あのね。あたし宮路好きなの。ずっと。」


そんなことだろうとは思っていた。
宮路と話している時の真礼は楽しそうに笑う。言い合いはするけど信頼の証なのだろう。


「でもこのままが一番かなって。」

「なんで、?」

「んー、こうやって好き勝手言い合え無くなるのかなって。」

「怖いの?」

「そうだね。」


真礼の明るい顔は優しく、そして寂しそうな顔になっていた。気づかない振りをすることしか出来なかった。


「メイクはどう?こんな感じでいい?」


見せられたのは男の子そのものだった。
可愛い。自分じゃないけど。自分じゃないから可愛い。男の子だ…。


「ありがと!当日もこれよろしくね!」

「任せなさい!」


そして借りた白衣を身につける。
サイズを下げたものの、やはり袖は少し大きく、手の甲が隠れるくらいだった。


「似合うっ!!」


クラスのみんなもそう言ってくれた。
ショタだのなんだの、もう一人なんて絶対受けだ、とかも言い出している。


「もう一人のイケメン養護教諭の誕生だ!」


とか言いながら女子は盛り上がっている。
隠れ腐女子の子は隠すことなく「これ坂川先生とシチュ出来るんじゃね」とまで言い出してしまった。

「本出版したら売れるやつな」なんて。坂川先生をネタに使って…。

女子達の妄想は広がるばかり。


「ちょっと低い声出して?」


と真礼に言われ、言われたままに出すと感動の声が上がった。「羽音ちゃん!ちょっと後ろからぎゅってして喋ってみてくんない!?」と言われる始末だ。


「え、でも恥ずかしい…」

「いいから!いいから!!」


私の恥を知ることも無く強要され、やってみてもいいか、と思い素直にやった。身長が足りなさすぎるため、相手の肩に顔が当たってしまった。


『行かないで…』


たった一言。女子はきゃあきゃあ言い出す。
ふと我に返り、


「もういいでしょ!返しに行ってくる!」


と言って恥ずかしさのあまりに飛び出してきてしまった。「ふふっ」と笑う真礼声が聞こえた。
何も知らない振りをした。


廊下を歩いていると、新垣先生が職員室に入るのを見た。そうとなると坂川先生は保健室にいないのかな。


「坂川先生…」

「あ!白野…さん…?」

「そうですよ!!」

「全く誰か分かりません 笑」

「ですよね」

「どうですか??」

「ほんとに男の子みたいです。すごく…かわいいです」


嬉しさのあまりに涙が出そうになった。
そして少しばかり照れた顔をしている先生を見て、よく考え込んでしまった。

明確じゃない私の気持ち。

真礼は感情の名前を見つけるのが上手だったんだ。

過去の出来事。

何も信頼できなくなったあの時。

拒絶したはずの恋、愛を今更。

もう私にはその感情は溢れない。

薄々分かってる。

自分が坂川先生に抱いてしまったこの感情。

受け取ってもらえない、さまよい続ける感情。

恋じゃない。

恋なんて出来ない。

怖くて。



気がついたら先生の中に体を預けていた。



──好きなんだ。




先生の体温にまた触れた今、そう思った。


この気持ちには歯向かうことができない。



先生は一瞬焦って「大丈夫ですか?」と言ったが、私が涙を流していることに気がついたのか、ぎゅっと力強く抱きしめてくれた。