「部活があるなら、速やかに行くように!」
先生の号令と共に、クラスのみんなが動き出す。他の子と話しながら教室を出ていく子や、シューズを抱える子、テニスラケットを隣の人にぶつけて謝ってる子。
色んな子がいる中で、私、白野羽音は他の人とは違う行動をしていた。
「先生、教室の鍵、いいですか?」
「はい、今日は何時くらいに教室を出るの?」
「今日は5時半には。」
先生は優しくうなづき、私の手のひらに鍵を置いた。
私の日課は、放課後の教室に1人でいること。
静かなところに1人でいるのって、どこで何をするより楽しいと思う。
そこで、音を奏でる。
スマホをカバンから取り出し、窓を開ける。
そして大きく深呼吸した後、スマホアプリで音を鳴らす。音の後に続いてゆっくり発生する。
初めは『♭シ』。
そこから『ラ』、『ソ』と下げていく。
ん…?今日は安定しないな…。
外が騒がしいからなのか、そもそも今日は調子が悪いのか…。
考えていると、明るい声が聞こえた。
「白野先輩!教室借りていいですか??」
楽譜とオーボエを抱き抱えた後輩だった。
「パート練習かな?」
「はい!」
「じゃあ…鍵、渡しておくね。ちゃんと戸締りしてから帰ってね」
「わかりました!ありがとうございます!」
少しかしこまって返事をしたため、抱き抱えられたオーボエがカチャっと音を立てた。
ちょうど調子が悪かったから、教室を貸すことが出来て良かったかもしれない。
もう少し、歌いたかったけれど…。
夕陽が差し込む校内の中心廊下。
騒がしいのはこの先に保健室があるからだろう。
何を言おうと、保健室には絶大な人気を誇る養護教諭の先生がいる。坂川悠虎先生。
綺麗にセットされた髪に、スラッとした背丈、馬鹿みたいに似合う白衣…人気の理由はこれらなんだとか。
職員室隣だし、ほかの先生達も大変だなぁ…。
今は担任の志田先生に用事がある。
保健室の奥に職員室があるって、こんなに大変なんだ。人多すぎて通れないし…。
「志田先生を呼んでほしい」と頼んで、坂川先生は私に気がつくのか…。
ものは試し。
「あ、あのっ…!」
やっぱり気づけないよなぁ…
と、思って諦めようとした時。
「まってください!」
驚いた。
まさか気づくなんて、思ってなかったから。
「何か用事でも…?」
「あ、えっと…志田先生を…呼んで欲しくて…」
「志田先生…。分かりました。少しだけ、待ってていただけますか。」
そう言うと坂川先生は職員室に駆けていった。
白衣がなびいていた。
私はその姿を目から話すことが出来なかった。
たくさん周りに人はいたのに、私には誰もいない静かな廊下のように感じた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。