第4話

日常になるセカイ。
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2021/07/20 04:39
その男子は、次の日も、また次の日も図書室にやってきた。

そして、満面の笑顔で「こんにちは」という。

私は最初、戸惑っていたが今では小さい声、それも聞こえるか否かの声で挨拶をしている。



最近では、お弁当を食べるためだけではなく、段々と彼に会うことも目的の1つとしてここに来るようになった。

あくまでも"目的の1つ"として。
井上 紗羅
こんにちは
今日も彼はいつもの窓際の席にいる。

そして、私を見つけるなり笑顔で挨拶をしてくる。
佐東 凛斗
こんにちは。




生きるのも、学校に行くのも辛かったが、少しずつ楽しみが出来てくる気がした。

佐東 凛斗
ねぇ。
井上 紗羅
ん!!?
佐東 凛斗
急に声かけちゃってごめんなさい。もしかして、驚いた?
井上 紗羅
は、はい…。

まさか声をかけられるなんて…。
佐東 凛斗
あなたの名前は?
井上 紗羅
わ、私は井上紗羅です…。
佐東 凛斗
紗羅ちゃん!可愛い名前だね!

からかわれているのか、真面目に言っているのかよくわからない。

でも、いつもの笑顔で言っているから、真面目に言っていると考えてよさそう。

井上 紗羅
あ、あなたは…?
佐東 凛斗
僕の名前は佐東凛斗さとうりんと。よろしく

凛斗か…。珍しい名前だね…。
佐東 凛斗
ここ、好きなの?
井上 紗羅
うん。
井上 紗羅
なんか、本に囲まれているのが心地よくて。
井上 紗羅
このインクの充満した独特の匂いがたまらないんだよね…。
佐東 凛斗
わかるよ。
佐東 凛斗
インクの匂いっていいよね。

その後も会話が続いた。

男子と話したことなんて数えるほどしかない私だから、ちゃんと話せているかなんて、わからない。

でも、楽しい。

そう思っていたら、お昼終了のチャイムが鳴り出した。
井上 紗羅
行かなくちゃ。
佐東 凛斗
そうだね。またね!


彼はいつもの笑顔で私に手を振った。

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