その男子は、次の日も、また次の日も図書室にやってきた。
そして、満面の笑顔で「こんにちは」という。
私は最初、戸惑っていたが今では小さい声、それも聞こえるか否かの声で挨拶をしている。
最近では、お弁当を食べるためだけではなく、段々と彼に会うことも目的の1つとしてここに来るようになった。
あくまでも"目的の1つ"として。
今日も彼はいつもの窓際の席にいる。
そして、私を見つけるなり笑顔で挨拶をしてくる。
生きるのも、学校に行くのも辛かったが、少しずつ楽しみが出来てくる気がした。
まさか声をかけられるなんて…。
からかわれているのか、真面目に言っているのかよくわからない。
でも、いつもの笑顔で言っているから、真面目に言っていると考えてよさそう。
凛斗か…。珍しい名前だね…。
その後も会話が続いた。
男子と話したことなんて数えるほどしかない私だから、ちゃんと話せているかなんて、わからない。
でも、楽しい。
そう思っていたら、お昼終了のチャイムが鳴り出した。
彼はいつもの笑顔で私に手を振った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!