なんなの。私あんたと仲良くしたいだけ。
なのにモテたいだの騙してるだの。
ホント…なんなの
そう言うと、私の手を引っ張り、外へ連れ出した
コンビニを抜け、草道を抜けて。森をぬけて、走り出す。
もうすぐと言いつつ、すごい走ってるけど…
これじゃ帰った時に学校に間に合わないんじゃないかな…
そう考えていると、大貴は足を止めた。
振り向きざまに、「ついたよ」と言う。
草道を抜けて森を抜けた先には、たくさんの岩で囲まれた大きな穴らしきものがあった。
そこにはたくさんの水が溜まり、大きな青空を映している。
ただの水たまり。そう、ただの。
だけどなんか、暖かみを感じる。
普通の水たまりよりも、遥かに大きい。
空の大きさと同じみたい。
大貴side
泣かれた時は、すごくびっくりした。
涼介の女嫌いは人を泣かせるほどなんだって。
正直、言葉を失った。何を言えばいいんだろう。どう接すればいいんだろう。
慰めあったところで、この先何にもならない。
そんなことはわかっていた。
だから余計なことは言わなかった。
だからとびきり驚かせてあげようと思った。
衝撃を受ければ、気持ちの整理くらいは着くと思って。
だから俺はあなたの手を引いてあそこへ連れていった。
何も言わず、草道を抜けた。
普通の人は水溜まりを見たところで綺麗で終わると思うが、
あなたは驚くと思った。
そんな気がした。
あなたは真剣そうに
悲しそうに水溜まりを見ている
そんなあなたがこう言った。
色んな気持ちがこもっている気がした。
慰めようと思ったら
あなたはこう言ったんだ
って。
朝焼けに照らされた君は
もっともっと綺麗だった。
時が止まればいいのに、なんて。そんな叶わないことを考えていた。
あなたと顔を見合わせて笑った。
休み時間にて
美化委員は裏庭の目立たない花壇にも水をやらないといけない。なんせ、美化委員の担当の鈴木先生がすごい張り切っちゃってるものだからね…
あ、ここにも水溜まりがある…綺麗
本当にさっきのは綺麗だったなぁ
そう、覗き込んだ時。
そう言って去っていった女子。
冷たい…
身体に冷たさが染みる。
今は冬だし…余計に。
教室暖房効いてたから
上着置いてきちゃったなぁ
深くて出にくい…
足元が凍ってる…
誰か…
助けて…
キーンコーンカーンコーン
あ、チャイムなっちゃった…
みんな私の事
別に心配してないかな
ここで居なくなるにはちょうどいいや
どうせ…どうせ…
声が掠れて消えてく。
誰…?
涼介side
俺はすぐさま走り出した。
あなたを抱えて。
華奢で軽い。
そして俺は気づいた。
こいつの閉ざされた眼には
涙が流れていることに。
すぐさま保健室へ行ったが、誰もいなかった。
そんなことはどうでもよかった。
体が勝手に動いた。
少し抵抗があったが、あなたから制服を脱がせ、俺の体操着を着させ、保健室のシャワー室へ入り、あなたにお湯を流した。
…早く目覚めてくれ。
何だこの罪悪感は。
犯罪の匂いしかしんのだが…
ッ…/////でっ、でも!?下着までは脱がせてねぇし…大丈夫だとは思う…が。
ここまでキザなセリフ、言ったことがなかった。
でも言っちゃったものはしょうがねぇけど。
のぼせちゃった。
涼介のジャージを貸してもらった。
やっぱり大きい。
涼介、背は小さい方なのに。
不思議。
あなたの頭は俺の肩にあった。
体温が伝わる。まだ冷たい。
俺は動かなかった。
俺はあの時、授業をサボって裏庭で音楽を聞こうとした。
だけど
誰かの声が聞こえて それがあなただった
動かずにはいられなかった
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!