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2021/09/09

第1話

1
コーマは、宿舎の長い廊下を歩いていた。

南に昇った満月は皓皓と輝いており、その白い肌を優しく照らした。
鈴虫であろうか、静まりかえった宿舎に虫の鳴き声が響きわたり、夜風が彼の寝間着の間をすり抜けていった。


彼は眠れずにいた。
この日の訓練はさほど疲れるものではなかったし、暇だと言えるくらいやることがなく、エネルギーを持て余していた。しかも運悪いことには、母からもらった寝付け酒をエイリーク様に貸してしまったのだ。ぶらぶら歩いていればいつか眠くなることを信じ、一人で歩いていたのだ。




数分後、やっとあくびが出始めた、その時。


「ぅん……」
どこからか、寝言が聞こえてくる──────

そう思ったのは、さらにしばらく歩いてちょうど、幼なじみ────ネイミーの部屋の前を通りかかったときだった。虫の音に紛れて、寝返りをうつような音も耳に入ってくる。
それでもドアはきちんと閉まっている。こちら側に音が聞こえることはまずないと思っていい。

(どうして聞こえないはずの声が聞こえるんだ?)

不思議に思ったコーマは、音を立てぬようその漏れ口を探した。


あったのは、穴。
人がやっと一人通れるくらいの、小さな穴。誰が、何のために作ったのか、またそれがなぜ彼女の部屋にあるのか、皆目見当がつかない。

最初はそれを横目で見ながら、何もなかったかのように通り過ぎるつもりだった。
しかし、ネイミーの部屋。変な恋愛感情は持っているわけではない。それでも、所詮は目と鼻の先にいる異性を前にした、思春期終わり頃の少年。そう簡単に好奇心に勝てるはずもなく、胸の高まりは増すばかり。

(少しくらいなら、バレないだろ!)

緊張を押さえながら、コーマはゆっくりと顔を伸ばしていった。



穴の横に書かれた文字に、気づかずに。




男の部屋では絶対に感じない、華やかで優しい香りが鼻孔をくすぐる。
それにつられて体を前に進ませると、彼女ともう1人別の寝息が聞こえてきたのが分かった。

顔まではっきりとは確認できないが、ネイミーより少し小さな体に、明るい黄色の髪。おそらく一緒にアメリアが、お互いに寄り添うようにして眠っている。
そういえば夕食の時、二人だけで話そう、といったような事を言っていた気がする。

(!なんで俺はこんな事を…!?早く帰って寝ないと!)

二人を邪魔する訳にはいかない。やっとの事で理性を取り戻したコーマは、もう体が腰まですっぽり入ってしまったあたりで、いい加減穴から抜けることにした。


(ん?)


抜けない。


思ったより深くハマってしまったのか、押しても引いても、捻ってみても、一向に穴から抜けられる気配はない。というかかえって締め付けられる感じがしている。

(詰んだ!!)

この状態で女子2人に見られたら、どう弁明しようにも好感度はダダ下がり、廊下側から誰かに見られるのも赤っ恥確定。特にレナックのおっさんにだけは見られたくない。一生馬鹿にされそう。血の気が引き、額に汗が浮かぶ。
助けを呼ぼうにも大声は出せない、かといって何もしないでいるのも意味はない。

──────もし、あの時興味本位で顔を出さなければ、今頃は眠りについていたのに……
今や眠気なんてどこかに吹っ飛び、今あるのは焦りと後悔だけだ。

(どうする?諦めて寝る?)

と、刹那。

コツ、コツ、コツ……


閑散とした廊下に誰かの足音が鳴り響く。しかもそれは、だんだん此方に向かっているような気がする。

焦燥。しかし抜け出せなくなってから早数分、既に戦意はゼロに等しい。


(もうこの際だからレナックのおっさんでもいい!女の人はできることなら見られたくないけど無いよりはいい!誰か俺を引っ張ってくれ────!!)

コツ。

足音が止まった。足音の主は下半身の前で立ち止まって、黙って何もしないでいた。


「……コーマか?」
「か、カイルの兄貴?どうしてここに…」

カイルだった。
彼はコーマにとって気の置けない友人であり、尊敬できる人間だ。いつも真面目で正直で義理がたくて、そういうところはすごいと思ったし、好きだ。
そして何より、こういうところで一番頼りになる。多少は怒られるかもしれないが、それでもこのことは秘密にしておいてくれるだろう。
幸い、そこまで大声を出さなくても廊下との意志疎通は出来るようだ。2人が起きないよう、できるだけ小声で話しかけた。

「いや、俺は仕事に区切りがついたんで用を足そうとしただけだが……それより、君はこんなところで何をしているんだ?」
「あー、まあ色々あってさ…抜けられなくなっちまったんだ。手伝ってくれないか?」
「……よく分からんが力は貸そう。………?」
「ありがとよ!って、どうしたんだ兄貴?」


「…コーマ、これを知っていて穴に入った訳ではないだろうな?」
「え?」


「セックスするまで抜けられない穴」


「えっ!?そ、そんなの知らないって!」
生真面目なカイルの口からあまりにも突飛でとんでもない言葉が発せられたので、割と大声で叫んでしまった。ハッとベッドの方をみたが、2人とも全く起きる気配はない。とりあえず大丈夫なようだった。
しかしその事が予想外すぎて、頭を抱えた。確かに穴の横に何か書いてあったような気が、する。

「…とりあえず引っ張るぞ。せーの!」
「って!いてててててて!!!」

ガッシリと腰を掴まれ、ありったけの力で引っ張られる。しかしカイルの巨体であっても、キツくはまった穴から抜くことはできず、コーマの内側の器官からミシッという音が聞こえた。このまま骨が折れる前に、壁を叩いて断念の意を示す。

「すまない、大丈夫か?」
「うっ、なんとか…」
「しかし、どうすればいい…このまま引っ張っても、君の体が保たないような気もするが……」


セックス。まさかここで男同士でしようとは思ってもみなかった。
確かに、噂ではあるがこの軍の中でも、そういう盛りが行われているというのは聞いたことがあった。某修道士はじめ、竜騎士とか剣士とか傭兵とか。それでもコーマには関係のない話だと思っていた。それなのに、まさかここで……しかも立ち位置的に、”られる”側。
(本来出すだけの場所に物を入れられて、どこが楽しいんだ?)
生理的な不安が重くのしかかる。できればしたくなかった。

「…コーマ」

だけど。

「…そういう事をするより、このままここに居るほうが嫌だ。だから──────」

一回でいい。一回で済むなら。