いつしか誰かが言っていた。
“好きという気持ちは誰にも何にも止められはしない”と。
実際、不倫に関しては完全に反対派だった私でさえもが気が付けば不倫をしているという実感さえも忘れてしまうほどに彼へと溺れきっていた。
暑い夏の夜。
今日光は出張で新潟の方へと出掛けているため、家には私1人しかいなかった。
きっと彼なら来てくれる。そう思いながらメッセージを送ってみたのだが、案の定慧くんは駆けつけてくれた。
だいぶ急いできてくれたようで、彼の額からは滝のような汗が流れ出ている。毛先も少し汗に濡れ、どこか色っぽさが感じられる。
彼をシャワー室へと案内し、バスタオルと着替えを用意した私は彼の着ていた服を洗濯機へとかけた。
さすがに汗まみれの服を着させて帰す訳にはいかなかった。とはいえ、光の服を着せたって彼が怪しむ事は目に見えている。
そのため私は自ら光と同じサイズのメンズ服を購入してはこういう時のためにと自室へ隠しておいたのだ。我ながら用心深いと胸を張った。
さて。予定では2泊3日の予定だから、光が帰ってくるのはきっと明後日。つまり明日の夜までは慧くんと一緒にいられる、という訳だが。
慧くんには悪いが、ご近所に目撃されないようにこっそりと彼を帰すには日中や夜よりかは深夜の一時や二時……ほとんどの人が寝静まったような頃がいいだろう。
さて、時刻は午後の20時。
慧くんももう既に夕飯は済ませてきたようなので、髪を乾かせば後は寝るだけだろう。
私も彼を呼び付ける前に全て済ませてしまったから。
シャワーを浴び終えてきた慧くんが、ぐっしょりと髪を濡らしたまま私の身体を抱き寄せた。
何やらいつもと違う感触に、私は思わず顔を向けた。そこにはパンツ一丁で私を抱き締める愛しき人の姿があった。
慧くんの言う通り、あれから何度か身体を重ねてきた私は彼の裸にはもう慣れてきていた。けど、でもそれとこれとは少し別な気がする。
例えセックスの時に慣れていようとも、恋人のように普通にイチャイチャとするような時の裸というのはいまいち恥ずかしさが残っていた。
仕方ない。頬に優しくキスを落とした彼の可愛さに免じて許してやろう。
「髪の毛乾かしてきて」と微笑み彼を洗面所へと送り出した私は、彼の洗濯物を干しに向かった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。