彼が部屋を後にしてから、私は洗い物や洗濯物そっちのけで泣き腫らした。
子供のように声を大にしてわんわん喚きながら、滝のように溢れ出てくる涙をただただこぼしていた。
とても苦しかった。
なぜあんな事を言ってしまったんだろう。
なぜ素直に“嬉しかった”と言えなかったんだろう。
なぜ彼が私にくれようとしていた愛を私は突き放してしまったのだろう。
様々な後悔に身を包まれながら、私は一人きりの薄暗い部屋で泣き続けた。
………そうすれば、きっと彼へ抱きつつあったこの“想い”だって消えてくれる気がしたから。
何時間泣いていたのか分からない。
でも、気づけば時計の針は昼の12時を回っていた。
………これはまずい。
すぐに洗濯物を干さなければ。
それからせっせと洗濯する服達を洗濯機の中へ放り込み、その隙に洗い物を済ませる。
そして、休む暇もなく洗濯が終了した服をベランダの物干し竿へと一枚一枚掛けていく。
ようやく午前中にするべきはずだった仕事を終わらせた。
時刻は午後13時半。
まだ夕食の支度には早すぎる。……と言っても今日はあの人が帰ってくるとは到底思えないけど。
重たい気持ちをなんとか起こしながら、渋々買い物へ出掛けるため、玄関を出たその時。
家の柵の前に立っていたのは、先程帰ったはずの慧くんだった。
気まずくてどうしても目を合わせられない私は、うつむきながら静かに会話を交わす。
私が何気なく口にしたあの一言を、どうやら彼はきちんと耳にしていたらしい。
悪戯げに微笑むと、「ね?もうちょっと一緒にいようよ」とウインクをかました。
渋々慧くんを再び中へ入れ、誰も入らないように一応鍵を掛ける。
さっきから慧くんが家に出入りしている所、ご近所さんに見られていなかったかしら?と少し不安になりながら。
何気ない気持ちで、素直に連絡先の交換を了承した。でも……もしもこれが、光にバレたらどうしよう。
私の心を見透かした慧くんは、スマホを取り上げると慣れた手つきで私のロック解除方法の設定を変更した。
どうやらメッセージ等の、画面を閉じていても自動的に通知が表示される物も、用心深く通知の設定を変更してくれたらしい。
でも、なんだかそれって……
あくまで慧くんにはそのような意思は一ミリも無いという。でも、だとしたらここまでする必要なんて―――。
私の思考を遮るように話題を変えてきた。
その行為に少し戸惑いながらも、
私はとっさに「そ、そうね……」とリビングのソファにお互い腰を掛けた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。