ガチャ
ドアがゆっくり開いた。
震える手から、靴を落とした。
「オッ…パ……。」
彼は口角をあげて、私を鼻で笑った。
その目からは殺意が見えた気がした。
「こ、こないで、」
「こっちへ来ないで。」
私は後ろへさがった。
[なんで?]
[俺が人を殺したのを知って怖くなった?]
彼の言葉で確信した。
彼は、人殺しなんだ。
「お願い、やめて。」
[俺があなたを殺すと?]
「なんで。」
「そんなことしないよね?」
私は唇を強く噛んでそう言った。
[さぁ?]
彼は首を曲げてそう言った。
「私が、私が何をしたって言うの!」
私はそう怒鳴った。
震える手を強く握って。
唇も、もっと強く噛んだ。
私はゆっくり、ゆっくり後ろへ下がると、そっと置物に触れた。
「今すぐ私を殺す?」
彼にそう聞くと、彼はまたふっと笑った。
[どーだろうなー]
彼が下を向いて笑った瞬間、私は触れていた置物を握り、彼へ向かって投げつけた。
[いっ、]
彼が頭を抱えた瞬間、私は彼がいない別の部屋を通り、家を走ってでた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!