私は涙を流しながら帰った。
タクシーを運転していたおじさんは不思議そうな顔をしていたけど、
私に何も言ってこなかった。
それが優しさだったんだろうか。
私は足を少し引きずりながら階段を登った。
一段一段。
ゆっくり登った。
階段の上につき、家の鍵をさした。
ゆっくりひねると、“カチャ”という音がなった。
ドアを開けると、彼の靴はやっぱりなかった。
彼はあの女と今、いるんだ。
私は捨てられたんだ。
私はカバンを床へ落とし、涙を流した。
ねぇグク、今どこにいるの?
帰ってきてよ。
私、こんなにもグクのことを愛しているのに。
日が暮れて月が姿を表した頃、
家のドアが開いた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!