お医者さんは、私の周りをよく見てから、また私に視線を移した。
『ここがどこが分かりますか?』
お医者さんは時かけた。
「びょう、いん…です、か?」
そう聞くと、お医者さんは安心したように肩が下がった。
お医者さんは一通り説明してくれた。
グクの前で足を滑らせて階段から落ちたこと、
すぐに病院に運ばれてきたこと、
グクはすごく心配していたということ、
今は少し外へ行ったこと、
今日安全が確認されればすぐに帰れる軽傷と言うこと。
私は何も口を挟まず、ただ頷いた。
だっていっぱい間違えているから。
足を滑らせたんじゃなくて、
グクに階段から落とされたこと、
グクは私を心配していないということ、
多分グクは帰ったということ。
ごめんグク、
全部全部知ってるよ。
でもね、言わないよ私。
だって、グクが私を愛しているから階段から突き落としたこと、
それを知っているから。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。