第3話

文化祭
2,493
2025/02/26 08:41 更新



ちょ______っ…!!


若井くんが、なんかへんだ……っ


" 認知すらされていない " 俺なんかに。


若井滉斗
お願いっ、「ひろと」って呼んで?
大森元貴
む、むりむり若井く………


_________映画終わり、

言葉責めならぬ呼び方責めをされてる
真っ只中。





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俺も見なきゃだから、と咄嗟にこじつけた理由で
一緒に見ることになった映画。

初めてまともに見る元貴の私服。
それを直視できないながらも館内に入る。

大森元貴
…結構混んでる
若井滉斗
んね
何故かぜんぜん合わせてくれない
その愛らしい瞳。

跳ねた襟足が目立つ後頭部を
コーラ片手に眺めながら歩く。



黙りこくったまま、ふたりが座ると、

力んだ元貴が声を上げる。
大森元貴
……えと、さ!若井くんはッ
──
あ、ごめんなさい
──
1つ席寄ってもらっても……?
若井滉斗
あ…全然だいじょうぶ、です____

_______遮られる。


ぱっと滉斗が左側の席の元貴を見ると、
座った自身の膝に両手を置き
ぎゅううと握りしめている。


……ちらっと見えるほっぺたが赤い。



若井滉斗
顔、赤い……体調わるい?
ばっとこっちを急に向いてきて、
眉毛をかくんと下げると慌てて否定する。
大森元貴
ぁ、ぅんん?!!?! げんきだよ!
若井滉斗
そ、そう……?

_________そんなに嫌かな?

もしかして、
やばいくらい俺…嫌われてる?

隣ですぐ俯いて
長く息を吐いている元貴が気になる。



そうこうしているうちに、真っ暗になりだす。


大森元貴
あ、け、携帯の電源切った?
若井滉斗
え?あぁ______
………なんで。

こんな、ふたりきりなんて………チャンスでしか無いのに。

攻められない自分がいやになる。




_____________その瞬間。


元貴のロック画面に表示された、
通知バーが目に飛び込む。


若井滉斗
………ぇ
大森元貴
?どした?
若井滉斗
…………へぇ、なるほどね
滉斗がきゅっ、とその涼しげな目元を細める。

_______え、なに、っ?

そんな戸惑う元貴に、
滉斗はへらりと笑ってみせる。
若井滉斗
さ、見よっか

予習、するんでしょ?

….余裕げにそう放った滉斗も。


頭の中はパンクしそうなくらい、元貴のことで
溢れかえっていて。








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──
う し ろ を み て ?
──
へ……っ、きゃぁあ゛あ゛ぁあ゛ッ…
バゴンッッッ゛!!!!! グチャ…ッ、




若井滉斗
、っ

心臓に響く大きい音。
生々しい描写。

ホラー耐性があって、好んで見ている
滉斗ですらちょっとだけ驚く。



………こんなとき、

元貴、は……………?




ぴく….っ



微かに、
肘掛けに置かれている
元貴の綺麗なちいさな手が反応してビクつく。


バレないように顔をみると
眉毛をぐっと寄せて下唇を噛み締めていた。




……………や、耐えてんのかわいすぎない…?




若井滉斗
元貴、へいきっ?
顔をぐっと寄せてみて、
囁くように滉斗は訊く。
大森元貴
っん、いや…
至近距離になって。

目を見開いたあと、斜め下をみて小さく言った。
大森元貴
……ちょっとこわい

_________ほら、ね。
若井滉斗
ふは…へへ、っ
大森元貴
なんで笑うのっ
ぶわあ、と頬を真っ赤に染めてゆく。


拗ねたみたいに、説得力皆無のその顔で
スクリーンへ集中の矛先を戻す。




…………横顔が可愛い。

つんと立った鼻筋と口先。
集中している瞳が愛らしい。



『ペアダンスがあるので相手を見つけておくように』


_________元貴は。

…誰と組むんだろう?



『そういや俺こないだ女子といるの見たわ』

______その子と組むの?


無意識に、
滉斗の華奢な手は元貴の手に伸びる。


握って………抱きしめたいよ。



ぎゅううって胸が締められる。
喉元が熱くなる。





_________君の隣は俺だけでいいのに。





──
~~♪♪
大森元貴
お、わったぁ……っ
若井滉斗
あれ、怖かったんじゃん
大森元貴
いや違ぅ゛ッ、!!
勢いあまって、肘掛けからすべり落ちる。
大森元貴
…っあ゛でッ
若井滉斗
ちょ、まじ大丈……
ふわあと元貴の髪から甘い香りがする。

これに酔わされているんじゃないかと、
そう錯覚させられるくらい。

………惚れ薬、みたいだな。




エンディングが終了を迎え、
だんだん明るくなっていく。




_________このふたりの時間も、
終わりかあ。




若井滉斗
…元貴はさ
若井滉斗
なんで" 若井くん "って呼ぶの?
大森元貴
_______は
前に掛けたカバンをとっていた元貴は、
どさっと落とした。


若井滉斗
や….同期だし、と思って
大森元貴
待って、そうじゃなくて…ッ
珍しいことを聞いたみたいな、
素っ頓狂な声を元貴は上げる。
大森元貴
名前………知ってる、?
若井滉斗
は、…ぇ
今度は滉斗が抜けた声を漏らした。


知ってるもなにも。

俺はずうっと、あの時・・・から_______________________

大森元貴
若井くん人気だから…僕なんか
知られてもないと思ってて
大森元貴
、下の名前ぇ……っ
映画館の椅子に、
元貴は崩れ落ちる。


若井滉斗
_______じゃあ
大森元貴
若井く………

ぐい、ッッッ゛!!



滉斗は元貴の二の腕を引っ掴むと、
強引に惹き寄せた。


あんなに賑やかだったここは、
もう静寂に包まれている。


元貴とふたり、

…………………息遣いが聞こえる至近距離。


若井滉斗
その若井くん、っていうの治そっか
大森元貴
へ…
抱き寄せるみたいにされて。
………体温が伝わって身体の芯が熱くなってくる。

大森元貴
まって、ちょっとぉ、…っ
手の甲で顔を隠す。

それを滉斗は片方の手で振り払って退ける。

若井滉斗
………………ちゃんと顔みせて
大森元貴
わ、わかいく…っ゛、近…ッ
前髪がかかって表情がよく見えない。

こてんと首を傾けて、
滉斗は近付く。

若井滉斗
はいっ、"滉斗"って言って?
若井滉斗
せえのっ
大森元貴
わ、ぅ゛………
若井滉斗
ほらほら、早くここ出ないと

正直そう言い攻める滉斗も、
__________限界で。


眼の奥がじわあと熱くなっていくのがわかる。




大森元貴
わ、若井………
大森元貴
……………これでい?
滉斗は、きょとんと瞳孔を縮めてから、

きゅうっと目を細めて、口角を上げてみせた。

…………いじわるな笑いかた。
若井滉斗
…まぁ合格?
大森元貴
ご、合格っ?

それから、滉斗は
いたずらっぽく口元を結んではにかんだ。
若井滉斗
______ふ、そうっ

滉斗は元貴の熱くなった肩から腕を解き、

すうと手を伸ばす。



…びくん、ッ



元貴が急な動きにまた反応する。


若井滉斗
……じゃあいつかは滉斗、かな
大森元貴
〜〜〜〜、ッッッ……ば、ッ
元貴はぶわわ、とまた赤面させて顔を伏せる。


滉斗が元貴の可愛く跳ねた襟足を
ぴんと指先で弄ぶ。


_________それから。



若井滉斗
……………期待してる


_______滉斗も、

髪で隠れたなかで、

その淡麗な顔を照れさせて
真っ赤に赤面させていた。





大森元貴
______で、んわ
若井滉斗
ぁ………出る、か
大森元貴
うん、っ
目を合わせられなくなって、
照れながら顔をそむけるふたり。


一旦、外に出ることになった。






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ちょっと見てくるね、と声を掛けて
元貴は1人になり震えるスマホを確認する。


大森元貴
………………え?

そこには、

" 藤澤涼架 " の表示。

大森元貴
藤澤、せんぱい………………???
元貴は躊躇いながらも、
手に取って_________……




・・・・・・・・






若井滉斗
ん、もう帰る?
ポケット片手に待つ滉斗の元へ、元貴が駆け寄る。
大森元貴
早く帰ることんなって
家の人からの連絡だと思ったのか、
すんなり承諾してくれる。
若井滉斗
………りょーかい、元貴
ばくんと心臓が跳ねる。

_______きゅうな名前呼び、やめてよぉ…っ



だんだんまた顔を赤くしていく元貴を見て、
滉斗は鼻先がつんと痛くなる。





…………じゃあ……
大森元貴
ばいばいっ
_______聞けなかったなぁ。

ほんとにあの女子とペア組みたいのかって。


…………まあ、でも。



滉斗はある決断をした。










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藤澤涼架
………しもし?
藤澤涼架
あ、聞こえる〜?
大森元貴
き、聞こえますっ!!
藤澤涼架
やっと繋がったぁ
今部屋?と訊ねられ肯定する。

着信が何件か溜まっており、
掛け直すと帰ってからまた電話してよと言われた。


そして今、
誰もが推す可愛い先輩と話すことになって。
藤澤涼架
いやぁ〜電話できる日がくるなんて
思ってなかったよお
大森元貴
や、そんなそんな……でもなんで
藤澤涼架
ん?どしたの?
大森元貴
だって先輩人気だし…………っ?
藤澤涼架
えぇーそうかなあ
へらりと仕方ないみたいに笑う。
藤澤涼架
…まあ何人かから
お誘いは受ける、かな?
________そりゃそうだ。


こんなルックスで、
しかもふわふわした優しい雰囲気で、
誰にも変わらず接して………



てことは、
きっと電話なんかも慣れてるはず。
……すぐ連絡先交換まで持っていってくれたし。
藤澤涼架
でも元貴もわりと誘われてるじゃん
元貴。

その自然な呼称に
一瞬、ばくばく、と心臓に動悸がおきる。


藤澤涼架
女の子に声掛けられたんじゃなかったけ
え………………?
大森元貴
っ、なんでそれ知って
藤澤涼架
ん、?知らない感じ…………?
結構人気だよ、元貴にペア申請した子
藤澤先輩が言うには、
あの子は狙っている男子も多く
トップレベルの人気を誇る女子らしい。


藤澤先輩の周りの何人かも告白しては
玉砕してるだとか。
大森元貴
そ、なんだ………
あはは、ほんとに知らなかったんだ、と笑う涼架。


________がんばってこうして
会話までこじつけたけれど。



スマホを握る手は力が入り、落ち着いていなくて。

……思い切って口を開く。
せっかくのチャンスだから。


藤澤涼架
それで、なんだけどさ
大森元貴
………っはいッ、
藤澤涼架
えへ、声裏返りすぎでしょ
______む。

また揶揄われる。先輩が楽しそうだからいいけれど。



涼架は思い切って、
口から転がすことにした。



藤澤涼架
……文化祭、一緒にペア組まない?
大森元貴
っえ…ッ?!!!?
かひゅ、と喉が音を立てて空を切る。
大森元貴
藤澤先輩と………???
藤澤涼架
うんっやならいいよ…………
……いや。よくないけど。


自分の言った言葉を反芻してみると、
一気に胸元がくるしくなって熱くなる。



元貴は一瞬、
_______『あの女子』が脳内によぎった。


初々しい様子で話しかけた雰囲気。
確かに圧倒的に可愛くて、
今までみた中でいちばんだった。


それと同時に、
さっきまで会って触れていた滉斗が脳裏に浮かぶ。

あのはにかんだ顔が、
笑い方が、低い甘い声が………俺は。




大森元貴
やじゃない、です
藤澤涼架
え゛ッほんとッ?‼︎
…………いいの、っ!??!!

あのカワイイ子じゃなくて。
男なのに、俺_________…


______好きな子とか…居ないんだろうか。


考えればそれほど、ぶわわと浮かんでくる。


その瞳をぐらぐら揺らしながらも、
涼架は安堵して。




………………それから、急に、

目を細めると低く笑った。




藤澤涼架
______僕とがいいの?
大森元貴
へ、っ
藤澤涼架
じゃないと〜
わざわざ男の先輩と組まないもんねぇ
大森元貴
、な゛……っ‼︎//
藤澤涼架
ほんとは…可愛い女の子がいーよね

あーあー、と落ち込んでみせる、

俺になぜか甘くて可愛い声色を送ってくる、

せんぱい。



大森元貴
せ、せんぱいと組みたいっ
藤澤涼架
ホント?やじゃない?
大森元貴
はい…っ!!
藤澤涼架
年上だよ?女の子じゃないよ?
大森元貴
良いんです、ッ…!!! もちろんっ
藤澤涼架
…じゃあ好き?
大森元貴
はい、っ!!!…………ッ?、あ…ぇ

勢いで返事してしまう。

藤澤涼架
えへ〜そおなんだ?
大森元貴
ちちち違……ッッッ゛!!!!
藤澤涼架
違う、も悲しいけどなあ〜っ
大森元貴
…ぅ゛…//…からかわないでっ
涼架は電話越し、
頬づえをついて微笑ってみせる。

その柔らかい髪がふらりと揺れている。





元貴を、

________揶揄いたくなった。


藤澤涼架
ふ、…………っ、じゃ、切るね
大森元貴
え_____な、ん
藤澤涼架
言いたいことは伝えれたし?笑
藤澤涼架
……まだ話してたいの?
大森元貴
な、ッ…わけないです…っ!
藤澤涼架
……へへ、はいはいっ
_______じゃあまたね、っ



その言葉を最後に、
通話は切れた。


充電が無いことに気づき、手を伸ばして線を取る。


ぷす、…っ

ふぉん、と音がなり、
1人の部屋に響いて充電される。




藤澤涼架
〜〜〜ッッ、はぁ゛ぁ゛う゛……ッ

_______ぼふん。


突如、顔をまっかにして、
ベットに涼架が顔をうずめる。



藤澤涼架
調子狂うよぉ…っ……元貴と居たら


からかってみたくなって、

_____いじわるしたらどんな反応するのかな?



『………からかわないでっ』


ちょっとだけ拗ねてみせて、
ふくれたあの声色。

一瞬だけ緊張が解けて、
タメ口になった口調。


………ダメだ。

突然出会った後輩くんが、
可愛すぎる……っ………








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