私は裕福な家で育った。
いつからだろう。お父さんの遊びのせいでどんどん借金が増えていき、だんだんお世辞にも裕福とは言えない、ひもじい生活をするようになった。
お父さんは暴力を振るう。
ひかえめに言ってもクソ親父、ってところだろう。
今日もお父さんは遊びに出かけた。
「逃げて!逃げなさい、あなた、」
「え?」
恐怖と衝撃で動けなかった。
お母さんを食している物の正体は鬼だった。
お母さんにかぶりついて、お母さんはみるみる赤く染まっていく。
ふと目をやると、青い着物を着ていることに気がついた。
「嘘っ、お、お父さん!」
鬼はこっちに来る。逃げられない。いや、逃げる?痛いのは嫌だ。
お母さん、ごめんなさい。すぐにそっちにいきます。
「てめぇの相手はこっちだァ!!こいやァ!」
急に現れたその人は、「殺」と言う字が書いてある羽織を着た、色素の薄い傷だらけの人だった。
風だのなんだの聞こえ、次に隙間から外を見ると鬼の頸が飛んでいた。
「おい、大丈夫か?」
「はい、ありがとうございます。」
やっと頭が追いついてきたらしく、どばっといろいろなものが込み上げてきた。
ポロポロと涙をこぼす私のそばに座り、その人は声をかけてくれた。
「怖かったなァ。」
大嫌いな男の声なのに、その優しい響きは心に染みた。
「ごめ、なさい、お母さんっ…」
そんな私に彼は言った。
「何かを守りたいんだったら、強くなれ。」
その瞬間、私の中で何かが目覚めた。
×××
朝起きると、目の下の敷物が濡れていた。
あれは、私が11歳の頃のこと。未だに偶に夢に見る。
鬼に変わったお父さんがお母さん襲って、男の人が助けてくれたんだ。
そんな私も、「助ける側」になろうとしている。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。