私は湯のみにはいったお茶を
流しに雑に捨ててその場を去った。
冨岡さんは私を引き止めることなく、
その場に立ち尽くしていた。
本当に私の事なんてどうでもよかったんだと思うと
涙が溢れて止まらなくなる。
もともと期待していた私がいけなかったんだ…
冨岡さんが私なんかを相手にするわけが無い。
そんなことは自分が一番わかっていた。
だけど好きだから…私だけを見てて欲しいから…
どうしたらいいかもわからず、
ただひたすら走って外に出た。
頭を冷やして何もかも忘れてしまおう。
そう思っていたはずなのに…
忘れようとするほど冨岡さんの顔が頭の中をよぎる。
それと同時に涙も溢れてくる。
今まで1番近くで冨岡さんを見てたのに…
どうして私じゃないの…
" あなた "
と優しい声で呼んでくれた自分の名前。
嬉しいようで悲しいようで…
自分なんてなんの取り柄もないただのお手伝い。
両思いで舞い上がっていた自分がバカみたい…
きっと…冨岡さんはしのぶさんの事が好きなんだ…
私なんて眼中にすらなんだよ…
考えなくていい事まで余計に考えてしまう。
重たいんだな…私…
私は宇隨さんに全てを話した。
涙が止まらず言葉を必死に探した。
宇隨さんは私の話をとめず
ゆっくりでいいぞ。と話を聞いてくれた。
宇隨さんに背中を押されて屋敷へと引き返す。
心臓の鼓動はどんどん強く、そして速くなる。
痛いくらいだった。
冨岡さんの部屋の前に来て足がすくむ。
伝えなきゃいけない…
後悔したくない…
気持ちだけが先走り、体が思うように動かない。
戸を叩く手が震える。
呼吸はどんどん浅く、速くなる。
落ち着け…私…
大丈夫…大丈夫…
そう自分に言い聞かせて、戸を叩いた。
コンコンッ
冨岡さんはこちらに視線を向けようともせず
机に向かい、仕事をしている。
と、冷たく、低い声で言われる。
私、何言ってるんだろう…
全く話の筋が通っていないことばかり言っている。
好きだという気持ちを伝えに来たはずなのに…
どう伝えていいのか分からなくなって…
頭が真っ白になる。
体にまとわりついた鎖が
一気に解けていくような感じがした。
嬉しいのか悲しいのか分からない涙が溢れて
声も出せず、ただただ泣くことしか出来なかった。
好きな人に好きだと言って貰えることが
こんなにも幸せだったなんて思いもしなかった。
幸せでいっぱいになった胸が、
トクトクと音を立て、高鳴るのがわかる。
もちろん返事はもう決まっている。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!