第23話

story #23
417
2021/01/01 15:06
私は湯のみにはいったお茶を

流しに雑に捨ててその場を去った。

冨岡さんは私を引き止めることなく、

その場に立ち尽くしていた。

本当に私の事なんてどうでもよかったんだと思うと

涙が溢れて止まらなくなる。
あなた

っ…(泣)

もともと期待していた私がいけなかったんだ…

冨岡さんが私なんかを相手にするわけが無い。

そんなことは自分が一番わかっていた。

だけど好きだから…私だけを見てて欲しいから…

どうしたらいいかもわからず、

ただひたすら走って外に出た。

頭を冷やして何もかも忘れてしまおう。

そう思っていたはずなのに…
あなた

もう…なんでよっ…(泣)

忘れようとするほど冨岡さんの顔が頭の中をよぎる。

それと同時に涙も溢れてくる。

今まで1番近くで冨岡さんを見てたのに…

どうして私じゃないの…



" あなた "



と優しい声で呼んでくれた自分の名前。

嬉しいようで悲しいようで…

自分なんてなんの取り柄もないただのお手伝い。

両思いで舞い上がっていた自分がバカみたい…

きっと…冨岡さんはしのぶさんの事が好きなんだ…

私なんて眼中にすらなんだよ…



考えなくていい事まで余計に考えてしまう。

重たいんだな…私…
宇髄 天元
派手に落ち込んでんなぁ。
あなた

宇隨さん…

宇髄 天元
また冨岡か?
あなた

……

宇髄 天元
図星か…
私は宇隨さんに全てを話した。

涙が止まらず言葉を必死に探した。

宇隨さんは私の話をとめず

ゆっくりでいいぞ。と話を聞いてくれた。
あなた

もう……どうしたらいいか…

宇髄 天元
そうだな…
俺だったら構わず派手に
逢いに行くけどな。
あなた

え…?

宇髄 天元
別に会いに来るなとは言われていない。
だから俺は会いに行く。
好きで会いに行ってるんだ。
別に悪いことではないだろう。
あなた

でもやっぱり…しのぶさんがいたのが
気になるんです…
しのぶさんの方が好きなんじゃないのかなって…

宇髄 天元
恋人でもねぇのに何言ってんだよ。
恋人がいなけりゃ、自分の部屋に女を連れ込んだって、他人に言われる筋合いはねぇだろ?
あなた

そ、そうですけど…

宇髄 天元
お前の気持ち知らないまま冨岡が胡蝶と結ばれてお前はなんとも思わないのか?
あなた

や…です…

宇髄 天元
あぁ?
あなた

嫌です!!

宇髄 天元
だったら行ってこい。
やることはわかってんだろ。
あなた

でもっ…

宇髄 天元
でもじゃねぇ。
派手に言ってやれ。
あなた

……

宇髄 天元
返事は?
あなた

……はいっ…!!

宇隨さんに背中を押されて屋敷へと引き返す。

心臓の鼓動はどんどん強く、そして速くなる。

痛いくらいだった。

冨岡さんの部屋の前に来て足がすくむ。


伝えなきゃいけない…

後悔したくない…


気持ちだけが先走り、体が思うように動かない。

戸を叩く手が震える。

呼吸はどんどん浅く、速くなる。


落ち着け…私…

大丈夫…大丈夫…


そう自分に言い聞かせて、戸を叩いた。



コンコンッ
あなた

桜庭です。今お時間よろしいですか?

冨岡 義勇
あぁ。入れ。
冨岡さんはこちらに視線を向けようともせず

机に向かい、仕事をしている。
冨岡 義勇
何の用だ。
と、冷たく、低い声で言われる。
あなた

とっ…冨岡さんはっ…
す、す、好きなっ…人とか…
いらっしゃらないのですか…?

冨岡 義勇
なぜそんなことを聞く。
あなた

あ、いや…その…
わ、私が…お手伝いに来なくていいって言われた理由となにか……
関係あるのかなって…

私、何言ってるんだろう…

全く話の筋が通っていないことばかり言っている。

好きだという気持ちを伝えに来たはずなのに…

どう伝えていいのか分からなくなって…

頭が真っ白になる。
冨岡 義勇
……あれは、数ヶ月前の話だ。
あなた

今…昔話ですか…?

冨岡 義勇
俺が柱になったばかりのときだ。
新しい鬼殺隊員が何人か入ってきて、
その中で1人しか女がいなかった。
冨岡 義勇
そいつは、自分が女ひとりであろうと、訓練や稽古、鬼との戦いから逃げずに頑張っていた。時に理不尽を言われることもあった。
冨岡 義勇
それにも屈せず、自分の信念を持って
毎日の稽古に励み、同じ時期に入ってきた隊員で1番成長していた。
俺は、そいつの頑張る姿に惹かれていた。
冨岡 義勇
そいつは、俺と同じ呼吸の型で、
柱の手伝いをしている。
あなた

え……それって…

冨岡 義勇
ココ最近、気分が晴れないことが多かった。胡蝶から話を聞くと、それは「恋」だと言う。難しいことは分からないが…
冨岡 義勇
どうやら俺はお前のことが好きらしい。
体にまとわりついた鎖が

一気に解けていくような感じがした。

嬉しいのか悲しいのか分からない涙が溢れて

声も出せず、ただただ泣くことしか出来なかった。
冨岡 義勇
すまない…
気づくのが遅くなってしまった…
手伝いに来なくていいと言ったのは…
真剣に頑張るあなたに対して
失礼だと思ったからだ。
あなた

そっ…そんなことっ…

冨岡 義勇
それが逆にあなたを傷つけてしまっていたとは…ほんとうにすまない。
あなた

い、いえっ…

冨岡 義勇
その……俺でいいなら……
恋人…になって…ほしい……
好きな人に好きだと言って貰えることが

こんなにも幸せだったなんて思いもしなかった。

幸せでいっぱいになった胸が、

トクトクと音を立て、高鳴るのがわかる。

もちろん返事はもう決まっている。
あなた

はいっ!
こちらこそよろしくお願いします!

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