ー 次の日 ー
私たちは宿を出て屋敷への帰路についていた。
冨岡さんは、行く時とは違い、
隣に並んで歩幅を合わせて歩いてくれた。
また今回も迷惑をかけてしまった…
そんなことを思いながら、俯いて歩く。
反省して、稽古をつけなければ。
また迷惑をかけてしまう。
もうそんなことは出来ない。
私だって柱なのだから。
冨岡さんに褒められた。
それに凪が使えるのは冨岡さんと私だけ…
とても嬉しかった。
2人だけの秘密ができたようで心が高鳴った。
*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――*☼*
しばらく歩き、屋敷の前に着いた。
すると冨岡さんは私の方を振り向き、
と、言った。
その言葉が嬉しくて、私も笑顔で
と答える。
冨岡さんは、少し顔を赤くして
俯きながら笑った。
その笑った顔はとても綺麗で
思わず目を奪われてしまいそうだった。
その後、吸い込まれそうなほど
まっすぐな目で私を見つめ、
と言った。
急な予想外の言葉に顔が熱くなっていくのがわかる。
そしてさっきと同様、
と笑顔で答える。
そのまま冨岡さんの硬い胸に抱かれ、
大好きな匂いに包まれた。
幸せな気持ちで胸がいっぱいになる。
体を離すと、いつものお仕事モードの冨岡さん。
そんな冨岡さんもかっこいいから好きだ。
*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――*☼*
報告を済ませて、それぞれの部屋に戻る。
私たちは2日間の休暇を頂くことになった。
その日の夜、冨岡さんは私の部屋を訪ねてきた。
何があったのかと尋ねると、
と言う。
思いがけない言葉に私は顔を赤くする。
自分でも熱くなっていくのがわかった。
そんな恥ずかしいこと、サラッと言えるのか。
と思いながらも、
と、赤くなった顔を俯かせながら答えた。
そんなふうに思っててくれただなんて
考えたこともなかった。
すごく嬉しかった。
恥ずかしいけど
なんとなく下の名前で呼んでみる…
すると彼は、いつもより優しくて柔らかい
表情と声で
と聞き返す。
やっぱり恥ずかしさが勝ってしまう私は、
恥ずかしさのあまり、赤くなった顔を
両手で覆って隠す。
そんな私の顔の前に、
小指を立てた右手を差し出し、
と言った。
それがとても嬉しかった。
私は、冨岡さんの小指に自分の小指を絡め、
" 2人だけの時は名前で呼び合う "
そう約束した。
そんなこと言われても、
今みたいな言い方されたら気にするよ…
思いがけない言葉に動揺を隠せない。
と、冨岡さんと…2人で…
って私!何、妄想してるの?!
は、恥ずかしいぃっ…
そんなの…断る理由がない…
そう答えると、冨岡さんは私の布団をめくり、
こっちに来いと言うように
布団をトントンっと叩く。
私は促されるまま、ロウソクの灯りを消して
冨岡さんのいる布団の中に入る。
な、何これっ…
き、緊張して顔見れないっ…
冨岡さんは仰向けに寝る私の方を向き、
左手で私を抱き寄せるように肩を持つ。
心臓の音が聞こえてしまいそうな程に
トクトクと早い脈を打っていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。