メリフの傷の手当をしているところ。
殴られた跡は大きな痣となって顔に残ってしまっている。
「痛いっ」
「あっ…ごめんな」
メリフは小さな声で言う。
メリフの種族、想狼族は精神年齢が妖狼族よりも少しばかり遅いのだが、メリフはそれが外見に出てしまった。
だから誰よりも小さな身長で、しっかりとした性格だ。
かなり珍しい成長の仕方ではあるが、想狼族であることは間違いない。
「メリフの父さんは元気か?」
「今は元気じゃない。ベッドで休んでる。」
「そうなのか。」
「私が生まれて一度しか狼になった所を見たことがないの。」
「もしもだ。」
「?」
「もしもメリフの父さんが亡くなられたら、メリフは想サラ国の国王を継ぐのか?」
「うん。」
「そっか…。じゃあ早めにここを出ないとだな。」
「でも私っ!イラールフと離れたくない。もう引き離されたくない!ずっとぎゅってしてたいの!」
メリフは突然泣きだした。
これが戦争が始まってからの今までの思いなんだろう。ずっと同じことを思って生きてきた。その思いがどんなものなのか、俺には痛いほどわかる。
だから俺はさっきよりも力強く抱き返した。
小さな体は今にも壊れそうだった。
「メリフ。」
「…?」
「どちらにせよ想サラ国には返さなければならない。」
「なんで!?いやだ!!」
「メリフ。分かってくれ。」
「それが今の壊れた世界のやり方だっていうの?」
「それに従うことしか出来ないのは国王じゃない。」
「え?」
「つまり、俺は従いながら抗うよ。メリフを俺のそばで守るために。」
「従いながら…抗う…?」
「メリフが想サラ国に帰ったとしても。俺は必ず会いにいくよ。どんな手を使っても。それは国王としてじゃなく、一人の男として…。」
「イラールフっ…!!」
あぁー。また泣き出してしまった。
かわいいものだ。
あっ。耳が生えてる。
このままだと他のやつにバレてしまう。
「メリフ、耳、生えてるぞ」
「あっ。ごめんね、イラールフってずっと考えてたら…」
「嬉しいけど…宮殿や妖アス国の軍人にバレると良くないから。」
「うん、わかった。」
「それと…しばらく外に出られないかもしれない。」
「バレちゃうからでしょ?大丈夫だよ。」
「理解していてくれて良かったよ。」
それから幾つの日がたったか。
俺自身に敵味方がハッキリとしたのは。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。