「総司令長!電報が届いております!」
背の小さな部下と思われる男が、総司令長のハルキィに何やらを渡している。
それを窓から見つめる俺、イラールフ。
そっと窓を開け、2人の話がギリギリ聞こえるようにした。
「なに…!?」
「この少女は捕らえるべきでしょうか。」
「どこからの電報か分からないのか。」
「はい。」
「…。捕らえろ。それから監禁状態に置き、様子を見るとする。」
「はっ。」
少女…か。
今では幼い少女ですらも捕えられ、殺されてしまうようになった。
いつの日からか、ミテリアスサラ王国だったこの国は、妖狼族と想狼族とで対立することが多くなり、『妖アス国』と『想サラ国』という対立状態の国になった。
少し前に戦争を始め、妖アス国は、想狼族が敷地に入ることを厳禁し、戦争に抗う者は全て殺してしまえ。といつ教えがあった。
かつて幸せに、仲良く過ごしていた『銀髪の彼女』は想狼族であった。
ミテリアスサラ王国が2つの国に別れた時以来、会ってすらいない。
会えない、という言葉より、「会わせてもらえない」という言葉の方が正しいような気がする。
「早速取り掛かれ!」
「はっ!」
総司令長、ハルキィは部下に命令を下していた。
捕らえた後、送られてくるのはこの国王室だ。
気がつけば俺は国王になり、『イラールフ様』と呼ばれるようになっていた。
いつか、どうして俺が国王になったのかを聞いたことがあった。
妖狼族、想狼族、共に狼に変化することができる。半ば変幻自在ではあるが、それぞれに条件がある。
そして、俺が国王になったのは、物理的にも心理的にも強かったからだそうだ。
コンコン。
大きな扉が音を立てている。
おそらくハルキィだろう。
「イラールフ様。よろしいでしょうか。」
「あぁ。」
ハルキィは大きな扉を片手で開けた。
もう一方の手には電報の少女が──
「イラールフ様。今朝私の元へ電報が届きました。想サラ国に怪しい少女がいると。この女がその『怪しい少女』かと思われます。」
「そうか。」
少女は手首を縛られていた。
長い髪は黒と銀が混ざった混色て、うなだれたように下を向いている。
その髪が少女の顔を上手く隠していた。
「この少女を一定期間、監禁部屋に置き、様子を見たいと思っていま…」
「ハルキィ。」
「はい。」
「少女から手を離し、一度国王室を出てくれ。」
「…ですが!イラールフ様!」
「いいから出ろ!!」
厳しく言うと、ハルキィは少女から手をパッと離し、荒く国王室を出ていった。
少女は重力に逆らうことなく、黒いカーペットに崩れた。
力の入る様子も見られなかった。
「…」
静かに混色の髪を避けると、傷だらけの顔が見えた。白いワンピースで見えていなかった足も擦り傷だらけだった。
「ハルキィに無理矢理連れてこられたんだな。」
とりあえず、羽織物で少女を包み、ベッドで寝かせた。
何かに気づいた少女はゆっくりと目を開けた。
その目の色は美しいエメラルド色だった。
しっかりと見たその顔は
どこか見覚えのある顔だった──
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。