いつもの公園。
今日は門限を10時にしてもらったから、
少しだけ話せる時間があった。
智は繋いだ手をポケットに入れて、
ゆっくりと歩き出した。
1度しか見た事ないけど、
踊っている智は、
忘れられないほど輝いていて、
すごく魅力的だった。
目が釘付けになって、元気をもらえた。
だから迷わず進んでほしかった。
私たちは今、
はっきり見えない未来が不安で。
でも、そんな中でも、
夢に向かってチャレンジして、
ぶつかっていこうとしている、
頼もしい人が側にいる。
だから私も、頑張れる気がする。
この人に出会えて、本当によかった。
心の底からそう思ったんだ。
そしてお正月。
年越しの12時ちょうど。
智から、あけましておめでとうメールが届く。
一緒に初日の出見に行きたかったなぁ…
家族でお参りに行く。
厄払い祈願を待ってる時、
だから、今日だって行かなかったのに!
智に会えないイライラを、
お母さんにぶつけてしまう…
何やってんだろ、私…
帰ってから智にメールした。
“7日の金曜会える?”
するとすぐに返信が来て。
“大丈夫やで!”
7日にデートの約束をした。
それ以外の冬休みはずっと塾だ。
朝から夜までずっと塾。
今年からは週5で塾三昧…
でも、7日は智に会える、
それを励みに頑張ってたのに…
会う前日、メールが届く。
“ごめん…明日無理になったわ。
ほんま、ごめんやで。”
すごく楽しみにしてたのに…
“了解。なんかあったの?”
“ちょっとな…トラブルがあってな。
今度ゆっくり話すわ。”
“わかった…会いたかったけど我慢する。
またメールしてね!”
“ほんま、ごめんやで。”
しばらくショックで動けず…
トラブルってなんだろ…
今度ゆっくりっていつだろ…
会いたかったのに…
ビー玉を出して、心の中で叫んだ!
『バッカヤロー!!!』
冬休みが終わって、学校が始まる。
すると美香が教室の前で待っていて。
悔しくて泣きそうになる…
こんな大事な事、
なんで本人から聞けないんだろう…
すぐに話してくれなかったんだろう…
私、彼女なのに…
学校が終わって、
美香が神ちゃんの練習してるスタジオへ連れて行ってくれた。
ガラス張りのスタジオだから、中の様子がよく見えて。
右の足首にぐるぐる巻きの包帯をした智と…
隣で楽そうに話していたのは、あゆみさんだった。
クリスマスに会った時の事を話した。
すると、あゆみさんが私たちに気付いて、智に教えた。
智は驚いた顔で松葉杖をつきながらこちらへやってきた。
後ろからあゆみさんの声。
無視する美香。
確かに…
なんであゆみさんが隣にいるの?
そこは私の場所じゃないの?
なんで、私の知らない事を、
あゆみさんは知ってるの?
どうしてそんな楽しそうに話してたの?
私はずっと会いたかったのに…
逃げるようにその場を去った。
歩きながら涙が出て。
悔しいのと、悲しいのと、
あゆみさんへの嫉妬と…
いろんなものがぐちゃぐちゃで、
つらかった…
美香は黙って背中をぽんぽんしてくれて。
涙が止まるまで一緒にいてくれた。
こんな気持ちになるなら、
来なきゃよかった。
頭の中は、智とあゆみさんの楽しそうな姿でいっぱいで。
夜、智からメールがきた。
それは話せなかった事の謝りのメールで。
頭の中を整理しきれてなかった私は、
メールの返信ができなかった。
自分のことしか考えてなかった。
一番辛いのは智だったのに…
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。