第18話

神山智洋
957
2021/07/02 08:21
智
今日はあっという間やったな。
あなた

うん!本当に早かったね。

いつもの公園。


今日は門限を10時にしてもらったから、


少しだけ話せる時間があった。
智
マフラーありがとな。
大事にするで。
あなた

うん!私もありがと!
智と会う時だけつける!

智
えっ!?普段も使ってええ…
あっ、やっぱあかんわ。
あなた

ん?

智
やっぱ俺の前だけな!
あなた

うふっ…なんで?

智
わかるやろ?
俺はヤキモチ焼きやねん。
可愛い顔は俺だけに見せてな。
あなた

そのつもりだよ。

智
かわええなぁ…
寒ない?
あなた

大丈夫!

智
少し歩く?
あなた

そだね!たまには歩こうか。


智は繋いだ手をポケットに入れて、


ゆっくりと歩き出した。
智
今度はいつ会えるんかな…
あなた

年明け?

智
そやなぁ…
冬休み、もう1回くらい会いたいなぁ。
あなた

塾がない日わかったらメールするね!
あっ!でもイベント近いから、
重なったらそっち優先してね。

智
ありがとな。
あなた

楽しみにしてるよ!
カッコいいんだろなぁ〜。

智
俺な、実はな、すごい迷っててな。
ほら、プロダクションの話。
あなた

うん。

智
本当はチャレンジしたくてたまらんけど、自信がないねんな…
あなた

あんなにすごいのに?

智
まだまだや。
もっともっとすごい奴いっぱいおるで。
その中でどれだけできるか不安やねん。
あなた

そっか…でもさ、
不安だから、努力するわけで…
努力した分、自信がもてるわけで…
不安が大きいほど、頑張るから…
努力家の智なら、絶っ対大丈夫だよ!

智
そうかな…
あなた

声かけてもらえたって事は、実力があるからでしょ?
やらなくて後悔するより、やって後悔した方がいいよ。
って、私が言える事じゃないか。笑


1度しか見た事ないけど、


踊っている智は、


忘れられないほど輝いていて、


すごく魅力的だった。


目が釘付けになって、元気をもらえた。


だから迷わず進んでほしかった。

智
ありがとう。
なんかやれる気がしてきたわ!
あなた

うん!

智
今度のイベントにも見に来るみたいやから、頑張って練習やな。
あなた

応援してます!

智
ほんま、話せてよかったわ!
ありがと。
あなたも、勉強頑張ってな!
応援してます!
あなた

来年は2人で頑張る年だね!

智
なんか、やる気出てきたわー!
あなた

私も!

智
あなた、結婚しよな!
あなた

えっ!?急すぎ。笑

智
俺にはあなたが必要や。
あなた

本当に?
でも、ずーっと先になっちゃうよ。

智
なんで?
あなた

お母さんがね、自立した女になるまでは結婚しちゃダメだって。
それだけは約束してって。
ちゃんと、社会に出て、一人暮らしして、仕事して、自分で生活できるようになって、それからだって。

智
なるほどな…
しっかりしたおかんやな。
あなた

昔っから言われててね。
だからだと思うんだ。
お母さんが、勉強勉強って言うのは。
私の将来の選択肢が、少しでも広がるようにって。
確かにそう考えると、さっき智が言ったように意味がないって事はないね。

智
となると、何年後やろなぁ…
あなた

結婚するの?笑

智
おん!
あなた

何年後だろうねぇ…

智
それまでに、俺もあなたに負けんような大人になっとかなあかんな。
あなた

そだね!笑

智
俺な、朝ごはんは和食派やけど、い?
あなた

うん!私もだよ!
ご飯と、お味噌汁と、鮭と、唐揚げと…

智
唐揚げ!?朝から?
あなた

だめ?

智
全然ダメやないで。
最高や!笑
私たちは今、


はっきり見えない未来が不安で。


でも、そんな中でも、


夢に向かってチャレンジして、


ぶつかっていこうとしている、


頼もしい人が側にいる。


だから私も、頑張れる気がする。


この人に出会えて、本当によかった。


心の底からそう思ったんだ。





そしてお正月。


年越しの12時ちょうど。


智から、あけましておめでとうメールが届く。


一緒に初日の出見に行きたかったなぁ…


家族でお参りに行く。


厄払い祈願を待ってる時、
お母さん
今年は大事な年だから、色々気をつけてね。
あなた

うん、わかってる。

お母さん
今年頑張れば、あとは好きにしていいからね。
あなた

わかってるってば。

お母さん
神山君ともほどぼどにね。
あなた

なんで?なんで今そんな事言うの?
わかってるってば!


だから、今日だって行かなかったのに!


智に会えないイライラを、


お母さんにぶつけてしまう…


何やってんだろ、私…


帰ってから智にメールした。


“7日の金曜会える?”


するとすぐに返信が来て。


“大丈夫やで!”


7日にデートの約束をした。


それ以外の冬休みはずっと塾だ。


朝から夜までずっと塾。


今年からは週5で塾三昧…


でも、7日は智に会える、


それを励みに頑張ってたのに…


会う前日、メールが届く。


“ごめん…明日無理になったわ。
ほんま、ごめんやで。”


すごく楽しみにしてたのに…


“了解。なんかあったの?”


“ちょっとな…トラブルがあってな。
今度ゆっくり話すわ。”


“わかった…会いたかったけど我慢する。
またメールしてね!”


“ほんま、ごめんやで。”


しばらくショックで動けず…


トラブルってなんだろ…


今度ゆっくりっていつだろ…


会いたかったのに…


ビー玉を出して、心の中で叫んだ!


『バッカヤロー!!!』




冬休みが終わって、学校が始まる。


すると美香が教室の前で待っていて。
美香
あなた…おはよ…
あなた

おはよー!どしたの?

美香
えっ!あっ、ほら、神ちゃんの…
聞いたよ、残念だったね…
大丈夫?
あなた

智が?どうしたの?

美香
えっ!?聞いてないの?
あなた

なにを?

美香
ダンスの練習中、怪我したんだって。
あなた

怪我!?

美香
捻挫しちゃって全治3週間だって。
あなた

えっ…

美香
イベントも出られないかもって。
私も昨日拓巳から聞いてさ。
あなた聞いてない?
あなた

うん…7日の日にね、会う約束してたんだけど、トラブルがあって無理って言われて…

美香
じゃ、きっとその前に怪我しちゃったのかな。
あなた

でもさ…普通すぐ言うよね…

美香
心配させたくなかったんだよ。
あなた

わかるけどさ…

悔しくて泣きそうになる…


こんな大事な事、


なんで本人から聞けないんだろう…


すぐに話してくれなかったんだろう…


私、彼女なのに…
美香
今日塾休みだよね?
神ちゃんのところ行ってみる?
あなた

うん。ありがと、美香。

学校が終わって、


美香が神ちゃんの練習してるスタジオへ連れて行ってくれた。


ガラス張りのスタジオだから、中の様子がよく見えて。
美香
あっ、いたいた!

右の足首にぐるぐる巻きの包帯をした智と…
あなた

あゆみ…さん?

隣で楽そうに話していたのは、あゆみさんだった。
美香
えっ?あゆみの事知ってるの?
あなた

ごめん…実はね…

クリスマスに会った時の事を話した。
美香
そうなんだ…彼氏があん中にいんのね。

すると、あゆみさんが私たちに気付いて、智に教えた。


智は驚いた顔で松葉杖をつきながらこちらへやってきた。
智
なんでおるん!?
あなた

美香から聞いて…

智
ごめんな…今度ゆっくり…
あなた

大丈夫?痛くない?

智
おん…今は大丈夫や。
あゆみ
神ちゃん、入ってもらったら?
あまり動くとあれだから。

後ろからあゆみさんの声。
美香
彼女気取りかよ。
あゆみ
あっ、美香もいたんだ。

無視する美香。


確かに…


なんであゆみさんが隣にいるの?


そこは私の場所じゃないの?


なんで、私の知らない事を、


あゆみさんは知ってるの?


どうしてそんな楽しそうに話してたの?


私はずっと会いたかったのに…
智
中…入る?
あなた

ううん!顔見れたから大丈夫!
練習中にごめんね、心配で…
今日は帰るね。

智
そか…送れんけど、ごめんやで。
あなた

うん。大丈夫!
お大事に。

美香
えっ?話してけばいいじゃん!
あなた

いいの!じゃ、帰るね。
行こ、美香!

逃げるようにその場を去った。


歩きながら涙が出て。


悔しいのと、悲しいのと、


あゆみさんへの嫉妬と…


いろんなものがぐちゃぐちゃで、


つらかった…
美香
あなた?
あなた

美香…どうしよ…ヒック
苦しくて…ヒック…涙が止まんないよ…

美香は黙って背中をぽんぽんしてくれて。


涙が止まるまで一緒にいてくれた。


こんな気持ちになるなら、


来なきゃよかった。


頭の中は、智とあゆみさんの楽しそうな姿でいっぱいで。


夜、智からメールがきた。


それは話せなかった事の謝りのメールで。


頭の中を整理しきれてなかった私は、


メールの返信ができなかった。


自分のことしか考えてなかった。


一番辛いのは智だったのに…


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