高津くんと私の接点は、正しく桜先輩が述べた通り。
マラソンがキーワード……というか、マラソン大会の1回だけしか接点はない。
高校1年生の冬に行われたマラソン大会で、私は残念ながら後方をキープし続け、最後から2番目というある意味なかなか勝ち取れない順位をマークする結果となった。
ほぼ全ての生徒たちがゴールしているグラウンドに、最後駆け込むのはかなり恥ずかしいものがあった。
体育の授業でマラソンコースのランニングが割り振られた時には、自分の不甲斐なさを理解しているからこそ、いつも手を抜かず頑張っていた。
にも関わらず、手を抜いていたクラスメイトに圧倒的な差を付けられる結果となった。
さすがに世の中は理不尽だなと思わないこともなかったけど、私が足が遅いのは動かしようがない事実で、仕方のないことだ。
そう諦めにも似た気持ちを抱いていたからこそ、私はそこまで悲しみにくれることもなかった。
だけど、そんな私の気持ちを優しく汲み取ってくれた人が一人だけいた。
……それが、他でもない高津くんだった。
そう言って、高津くんはにやりと笑みを浮かべている。
そして、私の体育帽をグイッと深く深く無理やり被らせてくる。
無理やり高津くんに体育帽を目深に被らされている私には高津くんの顔色が一切見えない。
何を考えて高津くんが述べているのかわからなくて、私は困惑しながら尋ねてみる。
すると、高津くんは長い返事をしつつ、ぶっきらぼうに答えてくれた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。