第4話

高津くんとマラソンと、私。
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2018/08/24 18:58
 高津くんと私の接点は、正しく桜先輩が述べた通り。
 マラソンがキーワード……というか、マラソン大会の1回だけしか接点はない。

 高校1年生の冬に行われたマラソン大会で、私は残念ながら後方をキープし続け、最後から2番目というある意味なかなか勝ち取れない順位をマークする結果となった。
 ほぼ全ての生徒たちがゴールしているグラウンドに、最後駆け込むのはかなり恥ずかしいものがあった。
 体育の授業でマラソンコースのランニングが割り振られた時には、自分の不甲斐なさを理解しているからこそ、いつも手を抜かず頑張っていた。
 にも関わらず、手を抜いていたクラスメイトに圧倒的な差を付けられる結果となった。

 さすがに世の中は理不尽だなと思わないこともなかったけど、私が足が遅いのは動かしようがない事実で、仕方のないことだ。
 そう諦めにも似た気持ちを抱いていたからこそ、私はそこまで悲しみにくれることもなかった。

 だけど、そんな私の気持ちを優しく汲み取ってくれた人が一人だけいた。



 ……それが、他でもない高津くんだった。
高津くん
お疲れ。
武田さん、いつも努力してたのに残念だったな
武田里英
……へ? 
いつもって……?
高津くん
ああ、体育。
武田さん、いつも真面目に走ってただろ?
武田里英
え、見てたの?
高津くん
んー、てか。見えるの。
俺自身、真面目に野球やってるしさ。
真面目に取り組んでるか、そうでないかは瞬時に見極めれるよ。それは密かな自慢
 そう言って、高津くんはにやりと笑みを浮かべている。
 そして、私の体育帽をグイッと深く深く無理やり被らせてくる。
高津くん
てかな、真面目にやっても報われないことなんてよくあることだ。
どんまいどんまい
 無理やり高津くんに体育帽を目深に被らされている私には高津くんの顔色が一切見えない。
武田里英
なんで、そんなこと……
 何を考えて高津くんが述べているのかわからなくて、私は困惑しながら尋ねてみる。
 すると、高津くんは長い返事をしつつ、ぶっきらぼうに答えてくれた。

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