第5話

高津くんと儚い約束と、私。
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2018/08/24 18:18
高津くん
んー……。
報われなかった時、一人で悲しむ寂しさを知ってるから? 
一人でも一緒に努力する過程を共有できたら、楽になることを知ってるから?
武田里英
なんで、疑問系なのよ……
高津くん
だって、武田さんがそういうタイプか分かんないから、一応疑問形で答えてみた
 にやりと笑いつつ、返す高津くんの言葉はとてもあたたかい。
 だからこそ、私は言っていた。恥ずかしさが優っていたからとはいえ、かなり強気な口調で言っていた。
武田里英
何、それ……
高津くん
ん、憎まれ口利けるくらいなら大丈夫だな。
んじゃ、今度俺がやばくなったら助けてくれよ
武田里英
……やばくって?
 私の強がりな発言を受けて述べる高津くんの発言は、次世代のエースである高津くんの姿からは想像も出来ない切ない表情をしていて釘付けになってしまう。
 きっと高津くんなりに意を決して発言したはずなのに……。
高津くん
俺が、甲子園行けなかった時
武田里英
馬鹿、何言ってるの。
高津くんは、エースなんでしょ? 
そんな簡単にダメな時考えちゃ、ダメだよ!!
 私は、軽く流してしまった。
 それが、よかったのか。悪かったか。未だに答えはわからない。

 一つだけ言えるのは、この発言があったからこそ約束した未来があったという事実だろう。
高津くん
…………そうだな、ありがと。武田さん。確かに
武田里英
高津くん
甲子園、行けるように応援してくれた方が遥かにうれしいかな
武田里英
え……
高津くん
気が向いたら、応援してね
 そう言った高津くんは左手をひらひらと振って、私の元を去っていく。
 その仕草は、ロジンバッグをマウンド上で左手を使って操る姿にダブって見えた。

 どこまでも相手の気持ちを考える高津くん。
 だからこそ、ここでも絶対に強引な発言はしなかった。
 最後まで『気が向いたら』という逃げ道まで用意してくれていた。


 そんな高津くんの優しさに気付くのは、卒業してしばらくのこと……。

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