サウスポーの高津くんが登板している姿を確認して、私は球場を後にした。
ロジンバッグをマウンドに置く仕草が、あの日……高津くんが私に向けて振った手の動きとダブって見えた瞬間、溢れそうになった気持ちを無理やり閉じ込め、踵を返す。
あの日、誰よりも私の努力を認めてくれた高津くん。
そんな高津くんの素直な気持ちを聞いたにも関わらず、私は自分に自信が持てずに逃げる選択をしてしまった。
甲子園を目指して頑張る高津くんに、私のような出来損ないのダメな子は相応しくない。
高津くんの隣にいたとしても、高津くんが輝く手助けなんて何一つ出来ないのだから、私は高津くんを思って泣くことさえもおこがましい。
なくのはセミに、輝くのは太陽に託すことにしよう。
そう思って、私は県予選の勝ち抜くことだけを目標に努力していた高津くんたち野球部の勇姿を見届けることもせず、球場を後にした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。