雲はずっと遠くを寂しそうに見つめながらそう言った。彼女は人間に憧れてやってきたのだ。そりゃそうだろう。
少しの沈黙。けれど、この静けさも彼女となら苦しくないし、何か喋らないとなんて思わなかった。
ふと見上げて見れば台風が近づいて来ているとかで、空は雲が多く、どんよりしている。
寂しそうな表情が消え、少し頬を染めて話す彼女は、きらきら輝いて見えた。そんな彼女に僕はまたドキッとしてしまう。
そっと、彼女の頭を撫でてみた。柔らかくて見た目のようにふわふわだった。
彼女は撫でられるの初めてと言ってくすぐったそうに笑った。
そんな中、ぽつぽつと雨が降り始めた。屋根のある駐輪場までとりあえず避難した。家を出る前、自転車のかごに放りこんできた、玄関に放ってあった黒の折りたたみ傘を広げて雲に渡す。
そのまま僕は自転車で急いで帰った。
雲は、何故かギュッと苦しくなった胸を抑えながら、遠くなっていく彼の背中に叫んだ。
ちゃんと聞こえていると良いな。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。