誰もいない海水浴場。その中でぽつりと雲は、水際で水平線に沈んでいく太陽を眺めて立っていた。少し息を整え雲の方へ向かった。
ハアハア息切れしている僕の背中を雲はさすってくれた。
そう言って、あのデジタルカメラが渡された。それを僕は受け取った。
早口で言い終わった雲は、ギュっと僕に抱きついてきた。そんな雲を、今回は躊躇わずに抱きしめ返した。
腕の中の雲は耳まで赤く染め、僕を見てふわりと笑った。
嬉しくてまた胸が苦しいねと2人で笑った。けれどお互いに分かっている。自分たちは人間と水で、これは叶わない恋だと。
そして、皮肉にもそろそろ太陽が沈みきってしまう。本当のお別れの時がきてしまった。
僕は涙が止まらなかった。
と雲はぽろぽろ涙を流しながらも、笑っていた。
もう、僕は何も言えなかった。
笑顔で別れてやるつもりだったのになんで最後までこんなにかっこ悪いのだろう。雲に撫でられ慰められる始末だ。周りはもう暗い。
もう太陽が沈むのに1分も無いだろう。
雲にそっと唇を重ねる、と同時に太陽が沈んだ。雲は光に包まれ、柔らかな感触が、腕の中の温もりが、姿が消えていった。
いや、水に戻ったのだ。
霧のような水が一番星の輝く空に舞い上がった。光が当たっていないのに輝いたその水は、
それはそれはどんな宝石よりも綺麗だった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。