第19話

第16話
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2018/08/24 13:27
誰もいない海水浴場。その中でぽつりと雲は、水際で水平線に沈んでいく太陽を眺めて立っていた。少し息を整え雲の方へ向かった。
翔野 英介
雲っ!
え、英介くん!全然来ないからもう、会えないと思った!
翔野 英介
雲との、約束、破るわけ、無いだろう……!
ハアハア息切れしている僕の背中を雲はさすってくれた。
英介くん……。こんな急いで来てくれてありがとう。もう、時間ないね。あのね、これ、私のデジタルカメラなんだけど……。流石に持っていけないから持ってて欲しい。あ、要らなかったら捨ててね!
そう言って、あのデジタルカメラが渡された。それを僕は受け取った。
それで、英介くん。毎日私に会いに来てくれて、いっぱい人間界の事を教えてくれてありがとう。私、本当にこの1ヶ月楽しかった。人間の世界は不思議で面白くて楽しかった。けれど、英介くん……貴方に出会えたことが1番嬉しかった!
早口で言い終わった雲は、ギュっと僕に抱きついてきた。そんな雲を、今回は躊躇わずに抱きしめ返した。
貴方を見ると胸がギュって苦しくなるの。

心臓がドキドキいうの。

人間になって始めてこんな気持ちに出会ったよ。
翔野 英介
雲。僕も君を見ると胸が苦しいし、ドキドキする。これを僕達人間は……恋って呼ぶんだ。
僕も兄ちゃんに言われて気づいた。

こんなお別れの時でごめん……。

けれど僕は……雲の事が好きだ。
腕の中の雲は耳まで赤く染め、僕を見てふわりと笑った。
……そっか。これが恋なのね。

……ありがとう英介くん。

私も英介くんのことが好きなんだっ……!!
嬉しくてまた胸が苦しいねと2人で笑った。けれどお互いに分かっている。自分たちは人間と水で、これは叶わない恋だと。

そして、皮肉にもそろそろ太陽が沈みきってしまう。本当のお別れの時がきてしまった。
翔野 英介
雲、1ヶ月ありがとう。言いたいこといろいろあったけど……ごめん。
僕は涙が止まらなかった。
いいよ、そんなの。……水はね、どんな姿にでもなれるんだよ?だから、きっと、またどこかで会えるよ。

……1ヶ月ありがとう。ずっと大好きだよ。じゃあ、またね。

英介くんと、もっとずっと一緒に居たかったなっ……!
と雲はぽろぽろ涙を流しながらも、笑っていた。

もう、僕は何も言えなかった。

笑顔で別れてやるつもりだったのになんで最後までこんなにかっこ悪いのだろう。雲に撫でられ慰められる始末だ。周りはもう暗い。

もう太陽が沈むのに1分も無いだろう。
翔野 英介
最後までごめんな。ほんとうにありがとう。
雲、大好きだ、ずっと。愛してる……
雲にそっと唇を重ねる、と同時に太陽が沈んだ。雲は光に包まれ、柔らかな感触が、腕の中の温もりが、姿が消えていった。

いや、水に戻ったのだ。

霧のような水が一番星の輝く空に舞い上がった。光が当たっていないのに輝いたその水は、























それはそれはどんな宝石よりも綺麗だった。

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