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第10話

承諾と変化
「未来の写真家さん」
大学が見えてきたところで彼女が僕のことを呼んだ。友人にもそう言われたことがあったなと思い出す。
「何ですか」
僕らは着実に大学に近づきながら話す。
「お願いがあるの」
「はい」
「あなたとのツーショットが欲しいわ」
ツーショット。僕は使わない言葉なので何か別の意味がある英語の言い回しなのかと思った。彼女の懇願の様子を見るとどうやら違うようだ。
「それは正直嫌です」
「なぜ?」
彼女は躊躇なく尋ねる。僕はまた下手くそな英語で答えを考える。
「自分の何も写していない表情が嫌なんです。どれだけ楽しいことや感動したことがあっても僕を被写体に入れて写真を撮るとどこか欠けている気がするんです。だから僕は自分を被写体にしないんです」
「なんだ。そんなことなのね」
僕が深刻な顔しているのが馬鹿らしいと言うふうなあっけらかんとした表情を彼女は僕に向けてくる。
「あなたの表情、私は好きよ」
僕は思わず胸が高鳴った。
「私の見たあなたは感情が豊かだったわ。表情に出ないから何?あなたが見て欠けていると思うならあなたは自分のことを全くわかっていないわ」
彼女は続ける。
「そんなあなたと一緒に写真を撮りたいの。ダメかしら」
もうすぐ大学に着く。僕は彼女の勢いに負け渋々承諾した。

パチッ。

出てきた写真を彼女に手渡す。僕はこの写真がいいものだとは思えない。
「最高の写真ね。ありがとう」
僕にはお礼を言われる意味もわからない。
「自分がどんな顔しているかって案外、わからないものよ。あなたももう少し自分の気持ちに気がつくために自分の写真を撮ってみたら?」
彼女が僕に写真を手渡してきた。そこにはやはり無表情な僕がいた。しかしその無表情の中に色々な感情が垣間見えてきた。理不尽に涙を流したこと。写真を喜んでくれて嬉しかったこと。写真家になることを決意したこと。僕の頭の中に一瞬にして広がる。この表情にもちゃんと現れていたんだ。僕が見ようとしていなかっただけなんだ。
「おーい」
思いっきり声を張り上げた友人の声がした。校門の前に立っている。
「それじゃあ、ここまで」
彼女は立ち止まり僕の背中をそっと押した。その感触には優しさが詰まっていた。
「ありがとうございました」
「世界の写真家になってまたどこかで会いましょうね」
彼女が言うと本当にそうなる気がしきた。
「ありがとうございました」
僕は繰り返すことしかできなかった。今日の出会いを一生忘れることはないだろう。つい涙がこぼれた。
「友達が待ってるわよ」
彼女も僕と同じだった。悲しいから泣いているのではない。何かが溢れているだけだ。
「さよなら」
僕は彼女から目を離し友人の方へ駆け寄る。
「お前、どこ行ってたんだよ」
友人にいきなりど突かれた。思わず彼女の方を見返した。しかしそこから見えたのは後ろ姿だけだった。僕は目線を戻し友人にごめんと謝った。
「無事でよかったけどよ。なんかよくわからんがお前今いい顔してるよ」
僕は今、いい顔をしているのだ。今日の体験から僕は彼に言われるほどのいい顔ができるようになったのだ。僕は心の中でもう一度彼女と今日1日に感謝した。
「頼みがあるんだ」
「なんだよ。改まって。もう一度迷子になりたいとかは無しだぜ」
僕は思わず頬が緩むのを感じた。
「一緒に写真が撮りたい」

パチッ。

出来立ての写真を仰ぎながら僕は歩き始めた。晴れやかな空が広がっていた。