あの後、彼に私がなんて答えたかなんてよく覚えていない。
ただ、あの沈黙の中私が彼にとって印象深い言葉を言ったのは確かだった。
あまり表情筋を使わない彼が唯一目を見開いたから、だからきっと私がなにかそんなに凄いことを言ったんだと思う。
あれから2日後、蛍は夏風邪を拗らせて学校を休んでいる。
山口「今日もつっきー38度台の熱が出てるみたいだね、、お腹でも出して寝たのかな…なんて笑」
そういって笑う山口くんに100%の笑顔は向けられなかった。
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お便りやプリントを届けて欲しいと担任から言われて、私は今彼の家の前にいる。
あんなに慣れ親しんだ月島家。
勝手に入ったりしてたけれど、、なんとなく入るまでに気まずくて今じゃ吐きそうだ。
ドキドキしながらインターホンを押すのなんて、友達の家に初めて行った時以来だ。
ピンポーん と鳴らして
蛍 に LINEで
そう返した。
背中を向けて、家に帰ろうとした時。
蛍「…まって」
そこには冷えピタをはって、頬を赤くしてやっとのことで立っている彼の姿。
『なッ!なにやってんのさ、蛍!』
私はすぐに寄って彼の肩をがしっと掴んでそう言った。
蛍「まって…ごめん…………行かないでよ」
なんて、縋るように言われたらさ。
私はこういうのにめっきり弱いらしい。
『………ほら、中入るよ。』
私は彼にそういうと、蛍の部屋に引きずるようにして運ぶ。
蛍の額に貼ってある冷えピタを貼り直して、それで布団にいれればすぐに安心したかのように眠った蛍。
そんな蛍を見ていれば、胸がきゅうとなって
気づいたら彼の唇に私の唇を合わせていて___ .
寝ている彼に向かって、そんなことをした自分がなんだか恥ずかしく感じた。
置き手紙をおくなんて、私は彼女でもあるまいし……だけど、LINEくらいはと
そう送ると自分のスクールバッグを持って帰った。
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蛍「…………」
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!