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温かい春のまどろむ様な日差しに当てられて。
気付けば、どれくらいの時間が経ってたんだろう。
こんこん、と肩を叩かれた様な気がして目が覚めた。
「あっやっと起きた!」
聞き覚えのない声に慌てて目を擦る。
瞳を開くと、そこには見覚えの無い顔。
誰……このひと?
「おっかしいなぁ……キミで合ってると思ったんだけど」
「え?何のことが」
唐突に訪れた展開と、久しぶりに家族以外の人とまともに話す様な気がして、やる気の無い物言いになってしまう。
「まぁいっか☆」
「?」
もう一度よく目を凝らす。
大きな樹の頭上から射し込む木漏れ日で、少しだけ逆光だけど。
“男の子”が目の前に立っていた。
少し不思議な刺繍が施されたブラウスみたいなカッターシャツと、茶色のチノパン。
齢は、私と同じか少し下か……あどけない表情で、にこにことこちらを見つめている。
「うんうん。一人は寂しいよね」
「えっ何が?」
いきなり、私の暗い心の内を見透かされた様な気がして、怪訝な空気で彼を見返す。
どさっ
けれど、そんなことはおかまいなしに少年は私の隣にどすって腰をおろした。
「はぁ~誰かの隣って安心するなぁ」
「ちょ……っいきなり何なの?!やめてよ」
突然私にもたれかかって来るから、思わず振り払って叫んじゃった。
「ごめんごめん。ついつい嬉しくて」
私の横で、わたわたと両手を左右に振る。否定のポーズのつもり?
私はずいっと取り敢えず、彼から距離をあける。というか、ここを立ち去ろうかとすら検討するレベル。
(何なのこの人)
「嬉しいって言われても、あなたのこと何にも知らないんですけど。やめて貰えますか」
「つれないなぁ……せっかく会えたっていうのに」
何コイツ。ワケ分かんないよ……
彼は頭をぽりぽり、とかくと少しだけ困惑した表情で。
「私、もう帰ります」
「えっどうして?!」
「あなたみたいな人と、関わりたくないです」
何て言うか、変過ぎる。
知らない人についていっちゃダメって、鉄板だけど。
いやまぁ歳は同じくらいだし、見たことない人だから近所の遠い別の私立学校とかに通うただの学生なのかもだけど。
何て言うか、挙動が違和感ありまくり過ぎるーーーーーー
私は後ろで呼びかける声も無視して、早々に回れ右するかごとくその場を後にする。
吹き抜ける風と、舞い上がる枯れ葉。
彼のあどけない声が、暫くは聞こえていたけど。荒れた元来た道の坂を下りると、やがてその声も途切れたし、彼が私の後をついて来ることも無かった。そのことにほっと胸を撫でおろしたも束の間、お気に入りの場所に現れた“異物感”の怪しい少年の存在が、また私の心に暗く影を落とした。
(唯一全てを忘れられる、お気に入りの場所だったのに……)
さくさくと、未舗装の小径を下る。
(これから、学校……行かなくちゃ)
私は、何かを諦めたみたいに。
灰色の溜息をついて。
大嫌いな日常から逃避行するつもりだった“今日の予定”を返上して、鉛をぶら下げた様な足取りで、学校へ向かった。
*
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!