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がさがさ、ざくざく。
足元を踏みしめる。
下で雑然と広がった雑草たちが声にならない音をあげる。
家に帰りたくなくて。
学校にも行きたくない。
時々。全てを投げ出してしまいたくなることも沢山あって。
ある日の帰り道に、どうしようもない行き場の無い気持ちを抱えてさ迷っている時に、たまたま見付けた場所がある。
ちょっとした住宅街を抜けると、裏手にまだ未開発の荒れ地みたいなのが広がっている場所。
小さな小さな山を開発して、丘を住宅街に開発されたこの街だけど、ところどころまだそのまま昔の自然が残っている場所があって。
ちらほら竹林とか、荒れ地とか雑木林が住宅街の中に隠れていたりする。
ここはそんな住宅街でも街の端っこ、しかも谷間の向こうに位置していて。
裏から少し薄汚れた朽ちた小さな舗装されていない道を登ると、そこに辿り着くことが出来る。
「………」
そこは、言うなれば雑草の草原。
そして、数本の大きな木が何本かだけ。ポツン、と伸びてその場に存在感を与えている。
小高いその場所からは、私達の住む街が一望できる。
そしてその先には、海。
ただ風が頬を掠めてく。
小さく並ぶ家と、遠くに見える海。
そんな景色を見ていると、少しだけ自分の存在が小さくなった様な気がして。
そよぐ風のゆらぎと、風が荒れた草地を通り抜けるかさかさという葉が擦れる音を聞いていると、本当に本当に少しだけ、心が癒されるみたいで。
気が付けば、しょっちゅうここに来る様になってしまった。
私の秘密のお気に入りの場所。
(きっと地主がこの土地を手放さないんだろうな…)
開発が進んでいない、ということは誰かがこの土地の権利を持ってる、そういうことなんだろう。
私の家の近所の小さな雑木林も、つい先月とうとう木々が切り倒され、今は“宅地分譲中”ののぼりはためていてる位だもの。
平らになってしまった、均一的な剥き出しの茶色の土に変わり果てた土地に。
(風、きもちいい……)
ゆっくりと目を閉じて、荒れ地に目印みたいにたつ大きな一つの樹にそっともたれる。
5月下旬。新緑の季節。
寒くもなくて、暑くもない。
緑色に染まった空気が、何もかも嫌なことを洗い流してくれる、そんな錯覚に少しでも陥りたくて。
そっと鞄に忍ばせていた小さなシートを取り出す。
100均で買ったレジャーシート。
1人が座る時に使う様なミニサイズのものだ。
これを敷いて、この木の下でぼーっとする。
好きな本を読んだり、携帯をいじったり……
何処にも居場所が無い、そんな風に思う私にとっては足元に時々現れる蟻とか、虫とかも気にならない位。多分心が寂しいのかもしれない。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。