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第15話

#14 キミがくれた花言葉
裏山とか、木の実とか―――



走りながら、急いてネットで“桃”の成長前の木の実を調べる。



……やっぱり。



あの木の実は、桃の未熟な実……?!





ファシュは、ファシュは………





駆け上る。舗装されていない小径、揺れる雑草、緩やかな坂………







「……れ」



ない。



草地、が半分無くなっていた―――



辺りに、作業途中のブルドーザーが静かに眠っている。



あの思い出の場所は、工事中の土地に変わろうとしているみたいで、辺りは綺麗な緑と汚い掘り起こされた茶色い土砂で満ちていた。



「そんな……」



「アネモネ」





名前を、呼ばれた気がして振り返った。

見れば、足元にあの木・・・が折れたまま、横たわっていた。

もう、伐採して次の作業ではきっとゴミとして処分される……そんな風に見受けられる。



「ふぁ、ファシュなの……」



「来てくれたんだ、ありがとう」



声、は聞こえるけど姿は見えない



「ファシュは、桃の木、だったの……」

「黙ってて、ごめんね」

「なんで」

「アネモネが寂しそうだったから」

「わけ、わかんないよそんなの、木の妖精とか、アニメじゃないんだよ?」

「ごめんね」

「一緒に過ごせて楽しかったのに、ヒトじゃないなんて、そんなのって……無いよ」



目頭が、熱い……





「ボクの名前、おじいちゃんがつけてくれたんだ。中国語で“桃花雪―タオファシュェ”って言う桃の季節に降る名残雪を表す言葉をもじって付けてくれたんだよ。おじいちゃんが、ボクが会いたがってたヒトだったんだ……ボクを育ててくれた――もうこの世には居なくなっちゃったけどね」



変わらない、優しい声。

ファシュが会いたがってたヒト。それは、もう二度と会えない人――――



足元にもう一度視線を移す。

折れた、ファシュ・・・・はもうくしゃくしゃで。

前に私の傍でそよ風に揺らしてくれた大きな緑の屋根は、ちりぢりに砕けかけていた。



「久しぶりにヒトに会えて、嬉しかったな。たくさん遊んでくれて、ボクも楽しかった……もう、それも無理そうだけど…」



私はブンブン、と首を振る。



「お願い、消えないでファシュ――」



ぽつ、ぽつ、ぽつ。

不意に、頬に滴が落ちる。



(そっか。まだ梅雨だから……)



梅雨時の、天候は移ろいやすい。

平日なのに、工事途中のブルトーザーが眠ったまま置かれているのも、もしかして急に崩れる雨を見越してのことだったのだろうか。



「ごめんね、アネモネ。でも、キミは一人じゃなかったんだよ」



私は、急に振り出した雨に打たれながら、ただファシュの言葉を聴いていた。



「その証拠にボクが居たじゃない」



頬が涙を伝って。雨に混じって消えていく。

傘が無い私は、濡れるしかない。

でも、この雨に打たれていたら、涙も見えないかな……



「でも、ファシュと……もう会えないなんて、嫌だよ、私…!」



どんどん雨が酷くなってく。あの、小さな桃の実を拾ったあの日みたいに。

でも、もう雨を受け止めてくれる大きな掌みたいな枝も、もう無くて。



剥き出しになった土と、薙ぎ倒された雑草が入り混じった地面がどんどん水を吸収してどろどろになっていく。



でも、ファシュは私の言葉には応えなくて。



「……!」



あれ……



ファシュが、目の前で微笑んでいた。

そっと、私の元に舞い降りる様に浮かんで、耳打ちする――



「忘れないで、あのね、アネモネってのは本当はいろんな花言葉があるんだ。悲しい意味だけじゃないんだよ。花言葉はね―――」





優しい囁くような声が、耳元で聞こえた気がした。