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第16話

#15 希望の芽




「傘も持たずに、一体何処で何やってたの?!」



って、雨にずぶ濡れになった私を、お母さんは怒りながらも心配してくれた。



うん、立て続けに2回もそんなことがあったら流石に心配するよね……



実はあれから、私がファシュに会いに行っている間に、先生がどうやら私の家に立ち寄ってくれたみたいだった。

急に走り出した私を追いかけたけど、見失ってしまったとかで……あの場所にも立ち寄ったけど、どうやら私と入れ違いになってしまったってことを後から聞いた。



「先生、あなたのこと色々心配してるみたいだったわよ……クラスでの様子とか。…また何でも相談してほしいって」



(お母さんには、まだ苛められてること伝えてないんだ……)



先生の優しさなのか、鈍さなのか分かんなくて困惑しそうになるけど。

まだお母さんには何も苛められてたことは話せて無かったから、少しだけほっとした様な、残念な様な…。



でも、ファシェは先生のおじいちゃんが育てた桃の木の精霊だったみたいだし、こうやってわざわざ家まで来てくれたりとか、心配はしてくれてるところとか見たら……今までよりはちょっとだけだけど先生のこと嫌いじゃ無くなりそう、とか調子のよいことを考えてみる。



人間ってつくづく都合の良い生き物だよねって。



そんなことを考えつつ、また私は消えてしまったファシュのことをぼんやり思い出していた。



(ファシェ……)



「お母さん、余った植木鉢とか、ない……?」

「あるけど、どうしたの」

「ちょっと、育てたいものがあって」









小さな我が家の庭で。出して貰った植木鉢に、ファシェの小さな“残骸”を差す。

私は咄嗟に、消えてしまったファシェのことを思うと辛くて、足元に広がっていた小さな枝を幾つか拾って来てしまっていたから。



(“挿し木”って育て方があるって聞いた事があったっけ)



植木鉢に、物置から見付けた“植物用の栽培土”を注いで。

ざく、ざく、ざくと土を掘って凹みをスコップで掘る。

そこに、残骸を優しく差した。



(無理かもしれないけど、ネットで調べてみたら可能性はゼロじゃないみたいだし…復活しないかな)



あんな風に話せた男の人、私には初めてのことだったよ。



「最初は気持ち悪いって思ったけどさ……」



もうファシェには会えないかもしれないけど。

この木をもう一度。

育てられるなら、育ててみたいよ……



「ねぇ、アネモネ。アネモネの別の花言葉はね……“希望”“君を愛す”」



最後にファシェが私に告げた言葉が浮かんで来る。



「たとえ君が辛い目に遭っていたとしても、ボクは君に出会えてしあわせだったよ」





絶望に満ちた世界に、色を付けてくれたのはヒトならざる存在だったなんて。



ファシェ………



“あなたを信じて待つ”



もう一つの、私が調べて知ったアネモネの花言葉。



勝手に私の前に現れて、あんな形で消えていくなんて本当はとってもやるせないや。

でも、もうあの場所にすら行けないのなら、せめて。



このファシェの残骸を、もう一度小さくても良いから“樹”として育てたい……そう、思ったんだ。





何もまだ日々は変わらないけれど。

ファシェの大好きだったおじいちゃんの子孫の先生も、少しだけど私の今の状況に気付いてくれた。





(いつか、ファシェみたいなひとにまた会えるのかな……)









お気に入りの場所は、それから数か月後にはみごとな宅地へと変貌して。

もう、ファシェと会ったことも夢の世界のことみたいで。



私のことを“キチガイ”って嘲笑っていた人たちも、あの場所が無くなったり夏休みを挟んだこともあってか、ソフトな無視したり陰口を言うだけの苛めにまた戻っていった。



だけど、先生がこの状況を見兼ねて少しずつクラスの雰囲気を変えようとしてくれたり、私のことを目の敵にしている数人にアクション取ったりしてくれているのは、今までとちょっと違う救いの変化だった。





私は、あれからファシェの残骸を何本か芽吹かせることに奇跡的に成功した。

もちろん、ファシェが現れることは無かったけど。



それでも、何とか今日も生きてるよ。





「キミがくれた“希望”……無くさずに、生きていけるかな」



そっと、枝に芽吹いた小さな葉に話しかけた。

あの樹はもう無くなってしまったけれど、キミがくれた“希望”がどうかこれからも私の中で消えないことを少しだけ祈った。



季節が変わり、やがて秋が訪れようとしていた。



願わくば、私に訪れた冬の季節が春に変わります様に………



「きっと来るよ、春」



少し寂しさと憂いを帯びた秋の風の匂いに混じって、ファシェの声が聞こえた様な…そんな気がした――





(おわり)