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第8話

#7 柔らかな、時間






同じ年頃の子とこんな風に話したのっていつぶりだっただろう。

あの言い様も無い悲しい小さな“無視”が始まったのが4月の中頃だったから、もう一か月以上ぶりかもしれない。



ファシュと並んで座りながら、お互い持って来ていたお弁当を食べた。

と言ってもファシュは、近所のパン屋さんで買ったっぽい、パンが3つ。お弁当じゃあ無かったけど。



「ボク、会いたい人がいるんだよね」

「そうなんだ」

「でも、きっともう会えないんだ」



語る彼の瞳に、少しだけ悲哀の色がともった気がした。



「時々辛くなったら、こんな風にここでのんびりしたくなっちゃって」

「会いたい人って?」

「それは、言えない」

「そっか」



もしかして、それは家族とか、好きだった人とか。

何か悲しい別れがあったのかもしれない、とか。

“お互いの理由を詮索しない”がルールだから。それ以上は訊くことは出来ないけど、そんな理由を思い浮かべる。

私の友達にも、お父さんとお母さんがリコンしたとかで、もうお父さんに会えないって話してる子が居たから。

(あの子も、全然話さなくなっちゃったな……)

クラスで離れ離れになった、今は遠く距離の空いたその子のことを思う。

去年までは、あんなに仲良かったのにって。



思い出したら、苦しくなった。



「アネモネちゃん、大丈夫?」



ファシュが心配そうに私の方を見て。



「あ、ごめん……」



「アネモネちゃんも、何かきっと辛いことがあってここに来てるんだよね」

「えっと」

「うん。理由は言わなくていいよ。ボクも言いたくないコトは言わないし。」



そう呟く彼の顔は、さっきまでの爛々とした笑顔は消えて、真顔だった。



「あっ。でも勿論、話したくなったら話してくれても全然良いから……!」

「あ、ありがとう」

「居場所が無いってさ、辛いよね」



少しだけ、寂しい空気が流れて行った。



何だかそれでも、どこかこの苦しみを共有して貰えてる様なそんな気が少しだけして、私は嬉しかったんだよ。









お日様が、ぐるぐると空をまぁるく横切ってく。

二人で話したり、沈黙したり。



私は携帯を触ったり、好きな音楽を聴いたり。

まだ提出出来てなかった宿題もちょっとだけ解いたりして。



ファシュも寝たり、辺りで筋トレとかいってトレーニングしたり、ぼーっとしたり。



丁度良いこの季節特有の気候も相まって。

あっという間に時間は過ぎていった。





「もう、こんな時間」



携帯の時計は、16:30を指している。



「ほんとだ」



傾いた太陽の日差しは、少しずつ夕方へと向かい始めてる。

5月で、夏至が近いと言っても、まだ夏じゃない。

少しだけ勢いを失った太陽の光の中で、何とも言えない空気が流れていた。



「私、そろそろ帰らなきゃ」

「そっか」

「ファシュは」

「ボクはもうちょっとだけ、ここに居るよ」

「わかった」



少しだけ、微妙な空気が流れて。



「また、会えるかな」

ファシュが唐突にそんな言葉を口にする。

「えっと、たぶん」

私は、何だかその問いにはうまく答える事が出来なかった。



「たぶんって」

「たぶん、でも」



「また来ると思う」

「そっか、会えたらいいな」



そう言って、ファシュはひらひらと手を振った。



「またね、アネモネ」



その呼び名に、まだどことなくむず痒い気がしないことも無かったけど。

私はこう言った。



「うん、今日はありがとう」