あなたside
「俺、後悔してました」
24時を回った頃、さっくんと兄が突然こんな話を始めた。
ソファーに座って2人の話を聞く。
「みなみのことばっか考えてて、あなたのことちゃんと見れてなかったなって」
「…大好きだった人が亡くなっても、忘れられるわけ無いよな。大好きだったっていう想いだけが残るんだから」
兄の言葉を聞いて、母のことを思い出す。母はいまどこにいるんだろう。この世にまだいるのだろうか。
「はい…俺、まだ多分みなみのこと好きです」
そう、それでいい。嫌いになんてならなくていい。
そう思ってはいるはずなのに、いざそれを聞くと胸の奥の奥に針を刺された様な感じがする。
兄の顔とさっくんの顔を交互に見る。2人とも優しい顔をしていた。
「いいんじゃねぇか、それで。大介くんはそれだけ一途な人って事だ」
だんだん眠たくなってくる。ゆっくりを目を閉じ、2人の声に耳を傾ける。
柔らかい声が心地よい。
「でも、あなたの事も好きなんです」
「…生きてる人間の中で、あなたが1番好きか?」
「はい、好きです」
「じゃあいいよ。それで。あなたを頼んだぞ」
「ありがとうございます」
2人が話す声が段々遠ざかっていく。
私はスッと眠りについた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!