あなたside
待ちに待った誕生日当日。
大切な1日は、何気ない日常から始まった。
朝は肌寒さで目覚め、彼にキスをされて、二人で朝食を作る。
シリアルにヨーグルトを掛けた朝食を食べ、シャワーを浴びる。
「あ、あなた」
「ん?」
「お昼さ、阿部ちゃんとラウール呼んでいい?」
「いいよ」
ゆったりとした部屋着に着替え、念入りに髪を乾かしてスキンケアをする。
薄いメイクをしてから、二人で散歩に出ることにした。
少し遠出して河原を歩く。
さっくんは私の顔を見ない。今日はいつもからは想像できないほど口数が少ない。
結局、ほぼ言葉は交わさずに帰宅した。
玄関のドアを開け、リビングの電気をつけると......
『ハッピーバースデー!!!!!!!』
重なった二人の声と鳴り響くクラッカーの音。
一瞬、思考が停止する。
「....ビックリしたーーーーー!」
リビングには、クラッカーを持ったラウール先生と阿部ちゃんの姿が。
2時間ほどみんなでご飯を食べた後、二人は帰ってゆく。
ドレスのようなワンピースを身にまとい、メイクをしっかり目にする。
リビングに戻ると、さっくんもスーツを着ていた。
「じゃあ、行こっか」
彼に手を引かれ、マンション前に待機していたタクシーに乗り込む。
行き先はある程度想像できている。
これから起こるであろうことに胸を高鳴らせながら、移り変わる窓の外を眺めた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。