第8話

七話
ぐしゃ。紙が変形する音を聞いて、ハルアキくんが「おいっ」と少し焦ったように言った。

「それ生徒に配るんだから、雑に扱うなよ。予備は何個か作るけどよ」

「……うん」

俯いて返事し、シワの入った資料を私とハルアキくんの間にある机に置く。

ハルアキくんが私を気にしているのがわかる。私は顔を上げずに口を開いた。

「好きな人はいないよ」

「おぉ、そうか」

喜ぶでもなく、咎めるでもなく。ハルアキくんは至極普通だった。

「ハルアキくんはいるの?」

なんだか悔しくて聞き返した。

そして、その答えにひどく後悔した。

「――いるよ」

微笑が混じった優しい声は、私に無視できない胸の痛みをもたらした。

……いちいち動揺するな。『知り合いの人』に好きな人がいようがどうでもいいだろ。

「初恋をずっと引きずってんだ。忘れようとしても忘れられなくて……不思議だよな」

「……ふーん」

「だから、最近開き直った。とことん好きでいようってな」

「ふーん」

棒読みを貫く。早く終わって、と願いながら。

不意にハルアキくんがプリントを重ねるのをやめて尋ねてきた。

「お前ラインやってるよな?交換しようぜ」

「いいよ」

スマホを出し合い、ふるふるで友だちになった。

追加してすぐ、私はハルアキくんの名前を「担任」に変更した。

もしメッセージが来ても落ち着いていられるように。