「……は?」
ベッドにうつ伏せに寝そべってスマホをいじっていた私は、たった今告げられた衝撃的な言葉で思わず起き上がった。
ハルアキくんに雑用を手伝わされたり、真帆と遊んだりしているうちに夏祭りの日になった。
帰宅部なので部活もなく、朝から晩までゴロゴロする――つもりだった。
私がゴロゴロできたのは夕方までだった。
さっき玄関のチャイムが鳴ったと思ったら、お母さんが部屋に入ってきて言った。
「夏祭りに行ってきなさい。春明くんが連れていってくれるそうよ」
そして、冒頭に戻る。
「え?なんで?いつそういう話になったの?」
「さっきよ。春明くんがわざわざ着てくれて、準備できるまで玄関で待ってますって」
「えぇー……」
「あなた、春明くんが数年ぶりに一緒に行こうって言ってくれてるんだから断っちゃダメよ?」
お母さんが楽しそうな笑顔で「ね?」と念押ししてくる。
……春明くんのこと嫌いじゃないけど正直、すごい嫌だ。
だが、着物を準備して着せてくる気満々のお母さんを見ると「行かない」とは言えない。大人しく着せられることにした。
フラれた相手と4年越しの夏祭り……。拷問かよ。
階段を下りながらはぁ、とため息が出た。
お母さんは片付けをしてくれているため、一人でハルアキくんの待つ玄関へ行った。
「お、準備でき……」
私の姿を捉えたハルアキくんが途中で言葉を止めた。
驚いたような顔のまま見つめられ、居心地の悪さと若干の不安を感じながら聞く。
「……待たせてごめん。えっと、何?『準備でき』のあと」
「……いや。何でもない。行くか」
ハルアキくんはちょうどリビングに現れた母親へ微笑んで「いってきます」と言うと、玄関の外へ出ていった。
慌てて私も「いってきます!」と叫んでハルアキくんのあとを追い、隣に並ぶ。
歩幅を合わせてくれているのか、とても歩きやすかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!