午後10時
○△□病院
部屋の前で、永遠に鳴り続けてる、
音の高い、“ピー ピー ピー”
という音に、一瞬体が固まってしまって、
動けなかった。
それでも、
自分の体ではないように、
重い、手と足を動かして、
何とかドアを開けた。
そして、初めに聞こえた言葉は…
そして、手早く機械を切って、
深く礼をして、部屋を出ていく、
医師に、何とも言えず、
ただただ、棒立ちになる。
そして、目の前に居る、
背の高い、男性。
きっと私の弟。
後ろ姿しか見えていないけど、
全く動かない。
これが、弟との初対面。
私は、泣く事も出来なかった。
ドアの前で棒立ちの私に、
弟は、疑問形で声をかけてきた。
弟は、ボロボロと、
涙を流し始めた。
弟のせいじゃない。
弟が謝る必要なんか無い。
私は、何かを思うより先に、
体が動いた。
そして、弟を抱きしめた。
私よりも、背が高いから、
きっと頼りないだろう。
それでも、少しでも、
優斗が元気を出せるなら、
私は、作り笑顔でも、
皆を笑顔にしないと。
来海にも、
“皆を笑顔にしてね”
って言われたから
初対面の弟に、
私は精一杯の、言葉をかけた。
背中を撫でて、
作り笑顔で、
だって1番辛いのは、
優斗だから…
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。