菊池が前に進み出たその瞬間。
カシャンと小さく音がした。
伸ばした手が、宙を切る。
それと同時に、音がした両側から、鋭い刃が飛んでくるのを見て、終わった、と思った。
その刃物は、女の子の髪を切り裂いて、向かい壁に刺さった。
はらはら舞う綺麗な黒髪を見て、頭を駆け巡ったのは、ニュースで見た【Beaster】の殺人事件だった。
作間がにこにこしながらナイフを拾うと、初対面の俺らは全員で身を固めた。
作間は耳に填めていたイヤホンを軽く弄り、あーあー、と声を出す。
ドラマで見るようなガラガラ声が、ホールに響き渡った。
その声を無視して女の子がノブに触れる。
菊池がそのこの手を見て驚く。
大きな火傷。
Beaster事件の時も、確か帰ろうとした人がノブに手をかけたら火傷したはず。
嫌な予感がした。
へらへらと笑みを浮かべる作間に、その場の全員が固まった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!