私は春が好き。
“彼”と出会い、笑顔を知った春が好き。
私は夏が好き。
夏休みの合宿、キツかったけど練習が終わったあと、みんなとワイワイした夏が好き。
私は秋が好き。
夏よりも更に真剣に練習に取り組んで、練習終わりに一緒にラーメンを食べた秋が好き。
私は冬が好き。
寒くて、人肌が恋しくなって。“彼”が隣で笑っていた冬が好き。
……そんな、世界の中心に。いつも彼はいた。
彼が。及川が好きだから。
この世界は、輝いていた。
中学にあがって、部活が始まって。
及川のバレーをする姿を、色んな人が見るようになって。
……どんどん、人気になって。遠い存在のように感じて。
彼を、彼たちを名前で呼ぶことが躊躇われて。
それでも、いつでもそばにいてくれた。
及川も。岩泉も。
だから、私の世界は輝いていた。
……だから。
その“世界”を恨んだ。
簡単に、あっという間に幸せを連れ去って。
いつの間にか、絶望の縁に私は立っていた。
……嫌われたくない。
だけど。こうするしかないんだって、根拠もないのにどこかでそう決めつけて。
最期にこんな苦しむ羽目になるなら。
愛なんて知らず、空っぽな人生を歩んでいたかった。
国見 𝒮𝒾𝒹𝑒
あなた「……私、信じてほしかったんだ。」
酸素マスクをつけて、息をするのもやっとのように苦しげなあなたさん。
そんな彼女が、ぽつりとそう呟いた。
国見「あなた、さん……?」
いつもと違う雰囲気の彼女。
違和感を覚えて。嫌な予感がして。
掠れた声で彼女の名前を呼んだ。
あなた「私…本当は……みんなと、笑っていたかった。……本当は……みんなといっしょに、いたかった。……本当のこと、言って。信じてほしかった……。最後まで、隣にいたかった……っ。」
国見「あなたさ……なに、言って……。」
あなたさんが、本当はそう思っていたことは知っていた。
だけど、彼女の口からそれを紡がれるとは、思ってもいなかった。
嫌な予感が、収まらない。
あなた「国見、私…っ。」
あなた「嫌われたくなんて……なかったッ…。」
国見「っ…。」
知ってた。分かってた。
分かってたのに。
俺は、つまらない意地を張って。
及川さん達に“何も知らない”と言い続けて。
今更遅いとか、勝手に俺が決めつけて。
……本当は、分かってたのに。
あなたさんが求めているのは俺じゃなく
及川さんだってことを。
国見「あなたさん、俺……あなたさんのこと──」
あなた「ありがとう国見。……国見がいてくれて良かった。」
続きを紡がせないように、俺の言葉を遮って放たれた言葉は。
国見「……ズルいですよ。そんなの。」
俺を、無情にも満たしていった。
本当にあなたさんは、大馬鹿者だ。
最期まで、考えていたのは。
他人のことなんだから。
そしてその日、
───あなたさんは、息を引き取った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。