第29話

28話
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2023/02/19 03:57



私は春が好き。


“彼”と出会い、笑顔を知った春が好き。




私は夏が好き。


夏休みの合宿、キツかったけど練習が終わったあと、みんなとワイワイした夏が好き。



私は秋が好き。


夏よりも更に真剣に練習に取り組んで、練習終わりに一緒にラーメンを食べた秋が好き。




私は冬が好き。


寒くて、人肌が恋しくなって。“彼”が隣で笑っていた冬が好き。












……そんな、世界の中心に。いつも彼はいた。


彼が。及川が好きだから。


この世界は、輝いていた。


中学にあがって、部活が始まって。


及川のバレーをする姿を、色んな人が見るようになって。


……どんどん、人気になって。遠い存在のように感じて。


彼を、彼たちを名前で呼ぶことが躊躇われて。



それでも、いつでもそばにいてくれた。



及川も。岩泉も。



だから、私の世界は輝いていた。



……だから。



その“世界”を恨んだ。



簡単に、あっという間に幸せを連れ去って。



いつの間にか、絶望の縁に私は立っていた。



……嫌われたくない。



だけど。こうするしかないんだって、根拠もないのにどこかでそう決めつけて。



最期にこんな苦しむ羽目になるなら。



愛なんて知らず、空っぽな人生を歩んでいたかった。














国見 𝒮𝒾𝒹𝑒





あなた「……私、信じてほしかったんだ。」





酸素マスクをつけて、息をするのもやっとのように苦しげなあなたさん。


そんな彼女が、ぽつりとそう呟いた。





国見「あなた、さん……?」





いつもと違う雰囲気の彼女。


違和感を覚えて。嫌な予感がして。


掠れた声で彼女の名前を呼んだ。







あなた「私…本当は……みんなと、笑っていたかった。……本当は……みんなといっしょに、いたかった。……本当のこと、言って。信じてほしかった……。最後まで、隣にいたかった……っ。」


国見「あなたさ……なに、言って……。」






あなたさんが、本当はそう思っていたことは知っていた。


だけど、彼女の口からそれを紡がれるとは、思ってもいなかった。


嫌な予感が、収まらない。







あなた「国見、私…っ。」

















あなた「嫌われたくなんて……なかったッ…。」


国見「っ…。」







知ってた。分かってた。


分かってたのに。


俺は、つまらない意地を張って。


及川さん達に“何も知らない”と言い続けて。


今更遅いとか、勝手に俺が決めつけて。



……本当は、分かってたのに。



あなたさんが求めているのは俺じゃなく


及川さんだってことを。







国見「あなたさん、俺……あなたさんのこと──」


あなた「ありがとう国見。……国見がいてくれて良かった。」







続きを紡がせないように、俺の言葉を遮って放たれた言葉は。







国見「……ズルいですよ。そんなの。」






俺を、無情にも満たしていった。



本当にあなたさんは、大馬鹿者だ。



最期まで、考えていたのは。



他人のことなんだから。





そしてその日、





























───あなたさんは、息を引き取った。







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