及川とは小学3年生の時に初めて出会った。
親の仕事の都合で宮城に引っ越してきて、たまたまそれが及川の家の近くだった。
及川『ねぇ、バレー好き?』
あなた『ばれー?』
前の学校にいた時から、私はいつも1人だった。
小学校低学年は遊び盛りで周りの子が元気よく外で遊んでるところを、私はただただ見つめているだけだった。
先生から『いっしょに遊んできたら?』と何度も聞かれたけれど、その度に首を振って遊び場で1人塗り絵をしたりだとか、そんな日々の繰り返しだった。
そしてそれは転校してからも変わらなくて、1人で過ごしていた。
そんな時に、いつも話しかけてくれていたのが及川だった。
家が近くで、登校班も同じだから気を使ってくれてるのかな、と幼ないながらに思った。
及川『そう、バレーボール!!興味ない?』
あなた『あんまり分からない。』
私がそう答えると、目を輝かせながら、嬉しそうにバレーのことを語り出した。
そんな彼を見て、私まで嬉しくなったのを今でも覚えている。
あなた『楽しそうだね、ばれーぼーる。』
及川『!!、でしょ!!』
ニカッと笑う及川につられて、私もクスリと笑った。
それから及川経由で岩泉とも知り合い、3人でいることが多くなった。
“暗い子”、“あの歳でこんなに暗いなんて不気味” 。
近所の人から良くそう噂されていた私だけど、
あなた『もうバレーやだ手痛いーー!!』
岩泉『慣れれば大丈夫だ!!気合だ気合!!』
あなた『ハジメそればっかじゃん!!気合いでなんとかなるもんじゃないのこれは!!』
及川と出会い、岩泉と出会い。
年相応に笑うようになったと、自分でも思う。
あなた『あはは!!とおるボール顔面キャッチしてる!!ダッさーい!!』
及川『見なかったことにしてー!!』
……多分だけど。
及川が“バレーは好きか”と話しかけてくれたあの日、
私はもうすでに、彼に惹かれていたのだと思う。
あなた『及川は強いよ。周りを良く見てて、凄いセッターだよ。それは私が知ってるから。及川が信じてくれてる私が言うんだから、この言葉信じられるでしょ?』
中学にあがって、本格的にバレーをするようになって。
乗り越えられない高い壁、牛島若利。
そして、後ろから迫ってくる天才。影山飛雄。
そんなふたりを前にして、焦りが出てきて。
いつも俺が俺がと、彼らしくない言葉を吐いて。
普段おちゃらけてる及川が、及川じゃなくなったようで正直怖かった。
それでも………
及川『あなたがそういうなら大丈夫な気がする!!』
私をいつでも信じてくれた彼が。
私の心を満たし続けた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!