第32話

31話
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2023/03/14 00:16


及川 𝒮𝒾𝒹𝑒



“後悔先に立たず”、なんて言うけれど。


…ここまで、この言葉の重みを深く感じるなんて思いもしなかった。




分かってたんだ。国見ちゃんの言う通り。


気づくのが遅すぎたこと。


気づいてから行動に移すまでの時間があまりにも遅すぎたこと。


何もかも全てが、中途半端すぎたこと。


後悔しかなくて、今更になって。あの時あぁすれば良かった、こうすれば良かった。


そんなたらればが頭をよぎる。




信じてあげるべきだった。信じなければいけなかった。


……こんなので、何が主将だよ。


こんな俺が、あなたを好きになる資格なんて。最初からなかったんだ。







及川「国見ちゃん。」







俺が今ここでどんな言葉を吐いても全て言い訳でしかなくて。


俺があなたに対して信じたものは、“あなたなら大丈夫”だという、あまりにも不確かなもので。


それを信じたのは、俺のただの“希望”に過ぎず


あなたにただ、押しつけただけのものだった。


本当に信じるべきは、あなた自身のことだった。


……それを出来たのは、国見ちゃんのみ。


その彼の言葉に耳を傾け、信じた金田一だって


今この場で呆然と立ち尽くすことしか出来ない俺たちよりも、


ずっと、優しくて。そして何より……










及川「ごめんね。」


国見「……っ。」







何より、葛藤に苦しんだことだろう。


あなたの気持ちを想って隠し続けて、けどあなたのことを想うと俺たちにそれを叫びたかっただろう。


俺は、俺たちは。責められて当然のことをした。








国見「ふざけ、ないでください…っ。」







……うん。そうだ。








国見「“ごめん”なんて…俺に言っても意味ない…!謝るぐらいなら、最初から……あなたさんを、見捨てないでくださいよ…ッ。」






……そう。







国見「まるであなたさんの行動が全て無意味だったみたいに…っ、謝らないでくださいよッ!!俺に、謝るぐらいなら…っ、なんで、信じなかったんですか……。」


及川「・・・。」







そう、それで良い。


いっぱい責めてよ。俺のこと。俺たちのこと。


無言で国見ちゃんを見つめる彼らも、きっと俺と同じだから。


責められたから、謝ったから。だから許される。


そんな都合の良い話あるわけじゃない。


俺たちだとて、許されたいわけじゃない。許されたくない。


たとえ何年、何十年経ってあなたが、国見ちゃんが俺たちのことを許したとしても。


俺は死ぬまで、自分のことを許せないから。


いつか俺が死んで、あなたに会って謝ったとしても。許せるわけがない。


“ごめん”なんて、そんな軽い言葉を。


あなたに送れるわけもなかった。





“後悔先に立たず”。


俺はもう、俺という存在がこの世から完全に消えない限り。


心から笑える日は、来ないのだと思う。


過去は語らない。


それはあなたへの侮辱へとなりうるから。


“あの時のあなた”が好きだっただとか、そんなの必要ない。


俺は、君の全てが。


ずっとずっと、好きだった ・ ・ ・よ。


……俺があなたを好きでいる資格はどこにもない。


だから、君へのこの想いは。


消えない呪いとして、胸に閉じ込めておこう。




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