及川 𝒮𝒾𝒹𝑒
“後悔先に立たず”、なんて言うけれど。
…ここまで、この言葉の重みを深く感じるなんて思いもしなかった。
分かってたんだ。国見ちゃんの言う通り。
気づくのが遅すぎたこと。
気づいてから行動に移すまでの時間があまりにも遅すぎたこと。
何もかも全てが、中途半端すぎたこと。
後悔しかなくて、今更になって。あの時あぁすれば良かった、こうすれば良かった。
そんなたらればが頭をよぎる。
信じてあげるべきだった。信じなければいけなかった。
……こんなので、何が主将だよ。
こんな俺が、あなたを好きになる資格なんて。最初からなかったんだ。
及川「国見ちゃん。」
俺が今ここでどんな言葉を吐いても全て言い訳でしかなくて。
俺があなたに対して信じたものは、“あなたなら大丈夫”だという、あまりにも不確かなもので。
それを信じたのは、俺のただの“希望”に過ぎず
あなたにただ、押しつけただけのものだった。
本当に信じるべきは、あなた自身のことだった。
……それを出来たのは、国見ちゃんのみ。
その彼の言葉に耳を傾け、信じた金田一だって
今この場で呆然と立ち尽くすことしか出来ない俺たちよりも、
ずっと、優しくて。そして何より……
及川「ごめんね。」
国見「……っ。」
何より、葛藤に苦しんだことだろう。
あなたの気持ちを想って隠し続けて、けどあなたのことを想うと俺たちにそれを叫びたかっただろう。
俺は、俺たちは。責められて当然のことをした。
国見「ふざけ、ないでください…っ。」
……うん。そうだ。
国見「“ごめん”なんて…俺に言っても意味ない…!謝るぐらいなら、最初から……あなたさんを、見捨てないでくださいよ…ッ。」
……そう。
国見「まるであなたさんの行動が全て無意味だったみたいに…っ、謝らないでくださいよッ!!俺に、謝るぐらいなら…っ、なんで、信じなかったんですか……。」
及川「・・・。」
そう、それで良い。
いっぱい責めてよ。俺のこと。俺たちのこと。
無言で国見ちゃんを見つめる彼らも、きっと俺と同じだから。
責められたから、謝ったから。だから許される。
そんな都合の良い話あるわけじゃない。
俺たちだとて、許されたいわけじゃない。許されたくない。
たとえ何年、何十年経ってあなたが、国見ちゃんが俺たちのことを許したとしても。
俺は死ぬまで、自分のことを許せないから。
いつか俺が死んで、あなたに会って謝ったとしても。許せるわけがない。
“ごめん”なんて、そんな軽い言葉を。
あなたに送れるわけもなかった。
“後悔先に立たず”。
俺はもう、俺という存在がこの世から完全に消えない限り。
心から笑える日は、来ないのだと思う。
過去は語らない。
それはあなたへの侮辱へとなりうるから。
“あの時のあなた”が好きだっただとか、そんなの必要ない。
俺は、君の全てが。
ずっとずっと、好きだったよ。
……俺があなたを好きでいる資格はどこにもない。
だから、君へのこの想いは。
消えない呪いとして、胸に閉じ込めておこう。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。