前の話
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俺は神谷大地。
どこにでもいる普通の高校生だが、1つだけ普通じゃない所がある。
それは、俺の幼馴染、鮎川あくるが1日で記憶がリセットされてしまうことだ。
あくるがそうなってしまったのは3年前のある夏の日だった。
「おーい。あくるー」
「ちょっと待ってよね。大地は男の子だけど私は女の子なんだからー」
そんな何気ない会話をしながら俺とあくるは2人で山を登っていた。
俺とあくるは登山部という部活に所属していた。中学に登山部があるのはこんな田舎くらいだろうと思っていた。
しばらくして、あくるが俺を呼んだ。
「ねえねえ。あの下に洞窟みたいな所があるんだけど行ってみない?」
確かに見てみると洞窟らしき所があった。だけど、そこまで行くのは少し厳しかった。だから俺は行くのを否定した。
「危ないからやめておこう。また後でこればいいじゃないか」
それでもあくるは行きたいと行った。
「えー行こうよー」
仕方がないので俺はここで待つことにした。
10分くらいしただろうか。あくるが戻ってくる気配がない。
俺は心配になりあくるが向かった洞窟のある場所へ降りていった。
そこにはあくるが頭から血を流して倒れていた。
「おい!あくる!しっかりしろ!おい!」
俺は必死に叫んだがあくるの反応はない。
病院へ連絡して、すぐに来るよう頼んだ。
ここは山の麓付近だったのですぐに来てくれた。
俺はひと安心したとこであくるが寝ている病室に向かった。
そこではあくるは起きていた。
俺はすぐに駆け寄りあくるの手を握った。
「あくる!大丈夫か!?ごめんな。俺があの時止めていれば……」
俺はあくるに何度も謝った。
だがその声はあくるに届かなかった。
あくるは俺を初めて見るかのような目でこういった。
「あなたは誰?」
そう、あくるはこの日から記憶を1日でリセットしてしまう体になってしまったのだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!