香しい紅茶が湯気を立て、お盆に載せられたパステルカラーのお菓子が次々と運ばれてくる。
くるくると働くプーペたちは、いつものお転婆で傍若無人な姿がまるで嘘みたいだ。
普段はめいめい好き勝手な格好をしているプーペたちは、お茶会とあってすっかり張り切り、お揃いの裾の長いドレス--ローブ・ア・ラ・ポロネーズで澄ましている。
昼下がりのピクニックのように浮かれた空間で、東洋ふうの紅地に身を包んだ双子は、ここぞとばかりに異彩を放っていた。
カリーヌは双子を従え、鷹揚に微笑んでいる。
にこにこがララ、おっとりがローラ……
繰り返し口の中でもごもご呟いて覚える。このおませさん、近頃の御趣味はわたしを揶揄うことなのだ。
そう声を掛けると、それまで表情の乏しかった双子に、変化が訪れた。
それは花が開くみたいに唐突で、星が瞬くみたいに華やいで。
ララはぱあっと表情を明るくして微笑み、ぱたぱたとその場を回遊してみせた。
反対にローラは照れたように顔を押さえ、ララの影に隠れようと縮こまる。
……ん?
ローラが顔を押さえた時、いま、何かが剥がれ落ちて……?
カリーヌは肩をすくめると、
なんて呟き、すこし冷めた紅茶のカップを持ち上げた。
たぶん見間違い。
潮流に従ってカップを軽く上げる。
パブの親父さん宜しく打ち付け合うのかと思いきやそんなことはなくて、草原と化した寝室は、穏やかに持ち上げられたカップと笑顔の奔流。
これが「ベルサイユのお茶会」……。
ほう、と息をついて、紅茶を口に含む振りだけした。噎せ返りそうなすみれの香りに包まれる。
お人形の食べ物は、口にしてはいけない。あの人の数少ない新人研修で言われたっけ。
さながら、ベルサイユのお姫さまたち。
微笑み合いながらお菓子を食べたり、語らい合ったり。
ああ、普段もこんなに落ち着いてくれていたら、どんなに良いことか……
ララとローラは口をきけない類のプーペらしい。
けれど、そこは同族で通じ合うものがあるらしく、人間のわたしには分からないなにかで談笑している。
片割れのララはあんなに楽しそうなのに、ローラはどこか物憂げだ。
頬をなでて、その手を見つめては、溜息をついている。
……まあ、そういう性質の子なのだろう。
オリアンヌだって物静かだし、もの憂いをするプーペは決して少なくない。
ああ、わたし、随分プーペのことが分かってきたみたい。
わたしはもう一度カップを持ち上げて、肺いっぱいにすみれの香りを吸い込んだ。
……たまには、こんなゆったりした昼下がりも、悪くない。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。