第15話

Lara et Laura 3
299
2019/11/29 18:59
Karine
Karine
お茶会へようこそ、店員さん。新顔を紹介するわ
かぐわしい紅茶が湯気を立て、お盆に載せられたパステルカラーのお菓子が次々と運ばれてくる。
くるくると働くプーペたちは、いつものお転婆で傍若無人な姿がまるで嘘みたいだ。

普段はめいめい好き勝手な格好をしているプーペたちは、お茶会とあってすっかり張り切り、お揃いの裾の長いドレス--ローブ・ア・ラ・ポロネーズで澄ましている。


昼下がりのピクニックのように浮かれた空間で、東洋ふうの紅地に身を包んだ双子は、ここぞとばかりに異彩を放っていた。
カリーヌは双子を従え、鷹揚に微笑んでいる。
Karine
Karine
にこにこした方がララ、おっとりしてる方がローラよ
ねえ覚えた? 覚えて帰って、ね?
Lara
Lara
…?
Laura
Laura
…!
にこにこがララ、おっとりがローラ……

繰り返し口の中でもごもご呟いて覚える。このおませさん、近頃の御趣味はわたしを揶揄うことなのだ。
店員
……たぶん、覚えたよ。よろしくね、ローラにララ
そう声を掛けると、それまで表情の乏しかった双子に、変化が訪れた。

それは花が開くみたいに唐突で、星が瞬くみたいに華やいで。

ララはぱあっと表情を明るくして微笑み、ぱたぱたとその場を回遊してみせた。
反対にローラは照れたように顔を押さえ、ララの影に隠れようと縮こまる。



……ん?

ローラが顔を押さえた時、いま、何かが剥がれ落ちて……?




カリーヌは肩をすくめると、
Karine
Karine
ま、普段からこんな感じよ
なんて呟き、すこし冷めた紅茶のカップを持ち上げた。

たぶん見間違い。





Karine
Karine
日柄も良きこのひととき、『ベルサイユのお茶会』にお付き合い頂いてありがとう。
プティ・フールはペネロープが頑張ってくれたのよ。わたしたちの名パティシエールに、どうぞ拍手を!

さあ、そろそろ良いかしら?
それではカップをちょいと上げて。双子ちゃんのお帰りを祝って……
プーペたち
Bonne santé!
店員
ぼんぬ、さんて……?
潮流に従ってカップを軽く上げる。
パブの親父さん宜しく打ち付け合うのかと思いきやそんなことはなくて、草原と化した寝室は、穏やかに持ち上げられたカップと笑顔の奔流。

これが「ベルサイユのお茶会」……。

ほう、と息をついて、紅茶を口に含む振りだけした。噎せ返りそうなすみれの香りに包まれる。
お人形の食べ物は、口にしてはいけない。あの人の数少ない新人研修で言われたっけ。



さながら、ベルサイユのお姫さまたち。

微笑み合いながらお菓子を食べたり、語らい合ったり。

ああ、普段もこんなに落ち着いてくれていたら、どんなに良いことか……

Pénélope
Pénélope
そう、そうなの!
うふふ、あなたってとってもセンスが良いのね、ララ!
Lara
Lara
……♪
ララとローラは口をきけない類のプーペらしい。
けれど、そこは同族で通じ合うものがあるらしく、人間のわたしには分からないなにかで談笑している。


片割れのララはあんなに楽しそうなのに、ローラはどこか物憂げだ。
頬をなでて、その手を見つめては、溜息をついている。
Laura
Laura
……
……まあ、そういう性質のプーペなのだろう。

オリアンヌだって物静かだし、もの憂いをするプーペは決して少なくない。

ああ、わたし、随分プーペのことが分かってきたみたい。




わたしはもう一度カップを持ち上げて、肺いっぱいにすみれの香りを吸い込んだ。

……たまには、こんなゆったりした昼下がりも、悪くない。

















店主
店主
やあ、どうやら楽しんできたようだね。頬が林檎の熟れたよう
店員
ええ。店長の言っていたあの双子の歓迎に、お茶会をしていたんです
店主
店主
ふうん……ああ、またカリーヌが張り切ったんだね
店員
そうでしたね。凝っていましたよ、とても
店主
店主
……どうだった?
店員
……何が、です?
店主
店主
双子だよ。……ローラ。コンディションはどうだった?
店員
はあ。元気そうにしてましたよ、お菓子食べたりお茶飲んだり
……あのプーペ、何かあるんですか
店主
店主
いや、ね。前の主人邸の保存状態が劣悪でさ、ローラ、肌が脆いんだ。シルクが苦手なんだよ、可哀想にね
……こんな話、楽しくないだろ。茶会の話を聞かせてよ
店員
……肌が、脆い?
店員
……重篤なんですか
店主
店主
性質自体はそう重くはないんだけれどね。いざ修理となると、長引きやすいからララの方が……
……きみ?
店主
店主
……どうしたの
店員
……ごめんなさい、これ、あたしの見落としだ
店主
店主
……修理?
店員
……L-2、Laura、超特急です
症状は目視の範囲では頭部表面の剥落のみだが拡大も考えられる、原因は不明、ローブ・ア・ラ・ポロネーズのシルクに対する拒否反応とも捉えられる
店主
店主
……きみは戸締まりを宜しく。終わり次第、台車持って寝室へ。大きい方ね
先に向かってるよ









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店主
店主
ごめんね、ララ、何度も

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