洋服を買った帰りに、カフェに寄ろうと言うジェルくんについて行く
いや、正確には引っ張られている
うん
もう僕イラついた
うん
ようやく自分の奇行に気付いたらしく、パッと手を離した
ちゃんと手に神経入ってんのかな
そこは、普段行く個人経営のカフェとは違う、大手の会社のカフェだった
学校帰りに勉強しに来ている人や、純粋にコーヒーを楽しみに来た人まで様々だ
その分五月蝿いが
いつもの癖で、カフェの一番端にあるあまり目立たない4人がけの席に座る
ジェルくんなその反対側にゆっくりと腰を下ろした
結構レストランに似た感じやな
そう言って笑って見せたジェルくんはこの店の空気に綺麗に溶け込んで、辺りにふわっと花が咲いているように見えた
特にメニューを開かずに言った
こうゆう大きい感じのところだと、コーヒーを淹れるのはマスターではなく機械だろう
機械相手にそこまで悩む必要性を感じなかった
ジェルくんの稚拙ながらの説明は、意外にも僕の心にヒットした
たまには違うものを試してみる……………か…………
些細な事で喜び、悲しみ、笑うことの出来るジェルくんとの生活は、僕の今までの風が吹いたら飛んでしまうような17年間よりずっと衝撃的で、刺激的で、退屈させないものだ
机の横にあった小さなボタンを押す
カチリと乾いた音を立てたすぐ後、カウンターの方から玄関のチャイムのような音が聞こえた
これで少し経ったら店員さんが来るのだろう
何とも近未来的になったものだ
歴史の旅に出るには、僕はまだステータス不足のような気もするが
すぐに店員さんが来て、注文を伝えると、鉄仮面のようなスマイルを崩さずにカウンターの奥へと消えていった
逆にあのレベルは尊敬する
う”っ………………
胸焼けしそう…………………
お待たせしました、とミルクティーが運ばれてきた
辺りにふわっと優しい紅茶の香りが広がる
中々に美味しそうだ
ポチャン、と音を立てて甘い塊が茶色い水に落ちていく
それを付属のスプーンで混ぜる
さらに甘い香りが辺りに広がる
本当に大丈夫かな
後で気持ち悪くならなきゃいいけど…………
優しく香るその液体に口をつけた
ジェルくんが分かりやすく項垂れる
ダンッと大きく音を立てて身を乗り出したジェルくん
静かだった空間にいきなり音を発生させたため、辺りの人に一斉に睨まれる
「ごめんなさい」、と軽く謝りジェルくんは席に着いた
そんなジェルくんと飲んだ最初のミルクティーは、優しくて甘い味がした
next→新たな才能開花
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!