「先生いなかったの?」
「いなかったっす。まじかあの先生……国語準備室とかないしどこいるんだよ……」
片桐くんが途方に暮れたように独りごちる。
しかし私の存在を思い出したようで、突然笑顔になると「じゃ、失礼しまーす」と言い足早に去っていこうとした。
平気なフリしてるけど……アテないよね、多分。
「待って!」
自分の口から言葉が飛び出した。
片桐くんに不思議そうな表情で見つめられる。私は頭をフル回転させて、それっぽい理由をぶつけた。
「私も、谷先生に用があったの思い出したの。一緒に捜してもいい?」
「――そうなんすか!?もちろんいいっすよ!捜し行きましょ!」
「うん」
良かった、信じてもらえて。
顔には出さずホッとして、私は片桐くんと谷先生を捜し始めた。
校舎内を歩き回り、それぞれの友達や先生と出会ったら姿を見かけなかったか聞いて、また歩き出す。
昼休みがもうすぐ終わるという頃、ようやく谷先生と会うことができた。
先生はなんと生物準備室で生物の先生と世間話をしていた。どうりで見つからないわけだ。
「谷先生、あの、今日提出って言われてたプリントを家に忘れてしまって……明日の朝出すのでいいですか?」
「ほぉ……やったのはやったんだな?」
「……は、はい」
「そうか。次から気をつけろよ」
「っはい!」
……あれ絶対やってないでしょ。
安堵が漂う片桐くんの晴れやかな笑顔を見ながら、谷先生って騙されやすいんだな、と学んだ。
ふと、片桐くんが私を向く。
「そういえば、先輩も谷先生に用があるんでしたよね?」
――あ。忘れてた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。