その日の部活。
ラストの試合形式で、私はゼッケンをつけて動き回っていた。
「あなた!」
飛んできたパスをミートして、その勢いのまま素早く相手を抜く。
そしてある程度ゴールに近付くと、味方にパスすると見せかけてジャンプシュートをした。
ボールが危なげなくゴールネットをくぐる。
「ナイシュ!」
守りに戻る最中、私にパスをした女バスのキャプテンが笑顔を向けてくる。私は無言で手を上げ、彼女とハイタッチを交わした。
「せんぱっ……!」
誰かの感動したような声が耳に届き、そちらに視線を移せば、口元を押さえてこちらを見てくる片桐くんと目が合った。
あまりにバッチリ合ったため驚いてしまい、すぐに目を逸らせなかった。
片桐くんも驚いたような顔をした。だが、彼は私のように固まることなく、みるみる嬉しそうに笑った。
“頑張ってください!”
女子を応援することはできないためだろう、口パクで片桐くんがそう伝えてきた。
ドキンッと心臓が飛び跳ねて、反射的に片桐くんから顔を背けた。
攻めてくる男子チームに気を配ることで、さっきの高鳴りを記憶からかき消そうとする。
する、けど――
「……っ」
――思い出すな。集中しろ!
拳を強く握って、油断している敵のパスをカットし速攻した。
自分で言いたくはないが私は足が速いので、ギリギリ追いつかれずにドリブル付きで走り抜き、レイアップシュートを決めた。
「かっ……こいい……!!」
今度はハッキリ分かった。片桐くんの声だ。
見られているんだと思うと何故か急に恥ずかしくなって、なかなかプレイに集中できなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。